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国立がんセンターとがん免疫療法の相克
がん標準治療「後」を考える
小林一彦(JR東京総合病院 血液・リウマチ科主任医長)

2009/03/12

 3月11日、国立がんセンター中央病院に於いて、土屋了介病院長主催の勉強会が開催されます。タイトルは“がん標準治療「後」を考える:がんペプチドワクチン療法 希望から失望、そして大躍進への期待”。演者は中村祐輔 東大教授です。言わずとしれたゲノム医療の世界的権威です。また、お恥ずかしながら、私も勤務医の一人としてシンポジストに招待されました。

 私は大学院時代にがん免疫療法を専攻し、その後、国立がんセンターでレジデント生活を送りました。その後、現在の施設でがん患者の一般診療に従事しています。

 国立がんセンターに在籍した私にとって、このような勉強会が国立がんセンターで開催されることに時代の移り変わりを感じます。本稿では、この勉強会の開催の背景を解説いたします。

【独法化で倒産が噂される国立がんセンター】

 昨年末、ナショナルセンターを独立行政法人化する法律が成立し、国立がんセンターは、2010年4月1日をもって法人に移行することが確定しました。しかし、この移行に伴い国立がんセンターが630億円におよぶ負債を背負わされる可能性が取り沙汰されています。

 “公認会計士 細野祐二が読み解く国立がんセンターの「財政破綻危機」”(『ZAITEN』0904月号 p102-106)によると、厚労省が(独法化が可能であると説明するため)国会に提出した予定財務諸表には固定資産の減価償却が一切なされていないこと、適切な財務状況が把握されておらず、企業会計原則に則って適切に計算すると、独法後の借入金返済が不可能なことが明らかになりました。

 では、なぜ、厚労省はこのような「虚偽」を報告するのでしょうか。知人から聞いた話ですが、今回の会計処理は、厚労省内に伝わる「社会福祉法人会計」と呼ばれる独特の財務会計とそっくりのようです。この制度は昭和30年代に社会福祉施設の管理のために考え出されたもので、政府からの補助金の存在を前提にしています。

 確かに、当時の社会状況を鑑みると、よく出来ているものらしいのですが、「減価償却」という概念が存在しないため、「企業会計」の体系とは相容れません。厚労省がナショナルセンター独法化の前提とする“単式簿記”は、この「社会福祉法人会計」を単に流用したものと推測すると納得できるみたいです。

【日本陸海軍の遺産を引き継いだ国民皆保険】

 この厚労省内の会計制度にしてもそうですが、日本の医療制度には古くからのシステムが温存されている部分が多く、現状と齟齬を来しています。なかでも基本的に戦時を想定したシステムに目立ち、かつその齟齬が大きいように見えます。

 例えば、“国民皆保険”制度にしても、そもそも昭和初期より草の根的に設立されていた協同組合に、国が財政支援したものです(1938年 国民健康保険法)。当時、中国との戦線拡大に伴い、健康な兵隊を徴兵するために陸軍が圧力をかけたことによると言われています。(池上直己『ベーシック 医療問題』日経文庫p54-55)

 がんセンター運営も、その基本思想と人事制度は前身の海軍医学校より受け継がれたものであり、これが診療に悪影響を与えている、との指摘があります(上昌広 Japan Mail Media 絶望の中の希望~現場からの医療改革レポート第18回「国立病院に生き続ける陸海軍の亡霊」)。この感覚は内部にいないとなかなか実感できないものですが、臨床現場に無自覚にも大きな影響を与えていることに間違いありません。上記レポートを是非ご一読ください。

 以上のように、がんセンターは我が国随一の癌治療機関でありながら、厚労省の失策と重い歴史のくびきのなかで、その能力を十分に発揮できなくなっています。これは個々人の問題というより構造問題なのです。

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