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臨床研修制度をめぐる医系技官の思惑
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門准教授)

2009/03/06

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院を経て2005年10月より現職。

 今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM(Japan Mail Media)2月25日発行の記事(第25回 医師臨床研修制度)をMRIC用に改訂し転載させていただきました。

 先日、医師臨床研修制度の見直しが大きく報道されました。5年前、「臓器を見て人を見ない医師ばかりになり日本の医療が荒廃している。すべての医師にプライマリケア(初期の幅広い診療)を」という理念を掲げ、鳴り物入りで登場した制度でしたが、あっけなく方針転換されました。

 そこで今回は臨床研修制度見直しの背景を紹介し、わが国の医療行政が抱える問題点を議論したいと思います。

【制度導入前から見えていた破綻】

 繰り返し報道されているとおり、2004年に導入された臨床研修制度は、地方の医師不足を加速させる結果を招きました。しかもそれは、制度導入前から多くの関係者が予言していたことでもありました。当然、現場からは、「制度をなくせ。そうすれば2学年分、1.5万人の医師が増える」という悲鳴があがりました。

 事態が急展開したのは、昨年9月。自民党の支持率低迷に悩み、その一因でもある医師不足問題に業を煮やした森喜朗元総理は、臨床研修期間「2年を1年に」短縮するために「医師臨床研修制度を考える会」を設立し、宮路和明議員に託しました。こうして高邁な理想をうたった制度は、僅か5年で見直される運命となったのです。

【今回の見直しの要点】

 今回の臨床研修制度見直しの要点は、研修内容の変更と研修医の計画配置です。

 現行制度では、内科・外科・救急・小児科・産婦人科・精神科・地域医療の7診療科が必修で、このうち内科は6ヶ月以上研修することが推奨されています。新制度では必修科目は内科(6ヶ月以上)、救急(3ヶ月以上)、地域医療(1ヶ月以上)に削減され、残りの診療科からは2科目を選択することになります。

 この結果、必修科目の研修は最初の1年間で終了することが可能で、後半1年間は自由選択になります。多くの医師は自分の専門科を選考するでしょうから、宮路議連の要請に応えたことになります。

 一方、計画配置については、これまでは病院ごとにマッチング枠を設定し、地域による制限はありませんでした。しかしながら新制度では、都道府県毎に研修医の定員枠が設けられます。これは研修医が都会に集中したため、地方の医師が不足しているという世論に応えたものです。

 さらに、研修医の応募が定員に満たなかった場合、その枠は削減されることになりました。また、病院毎の定員の合計が都道府県毎の定員数に満たなかった場合は、その不足分は地域の大学病院に割り振られます。大学が地域の医師派遣機能を担っていると考えられているからです。

【臨床研修制度の理念と本音】

 現行の臨床研修制度は2004年4月にスタートしました。プライマリケアを中心とした幅広い診療能力の習得を目的として、2年間の臨床研修を義務化するとともに、医師法を改正し、適正な給与の支給と研修中のアルバイトの禁止を盛り込みました。すなわち、わが国では、医学部を卒業して国家試験にも合格した全ての医師に、さらに2年の研修が義務づけられたのです。

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