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他山の石―海外の医療の紹介は役に立つのか?
森臨太郎(大阪府立母子保健総合医療センター・企画調査室)

2009/02/13

もり りんたろう氏○岡山大学医学部、同大学院博士課程、ロンドン大学公衆衛生学熱帯医学大学院修士課程修了。日本での小児科研修を経て、オーストラリアにて新生児医療に携わり、英国にて疫学を修める。その後英国National Institute of Health and Clinical Excellence (NICE)を舞台に、ブレア政権保健医療改革の一端としてガイドライン作成を含めた母子医療政策策定に携わる。2007年8月より現職。

 海外医療制度やあり方が紹介される時に、反応として返ってくるのは、「素晴らしい、ぜひ日本も見習いたい」、という態度か、「日本は歴史的にも文化的にも財政的にもその国と違うから関係ない」、という態度か、ということが多い。

 ある国の医療の在り方は、その国の文化、歴史、資源、制度、政治、国民性、地理、気候など、よくよく考えていくとこのような多くの要素がまじりあった中で成り立っていることが実感されていく。

 たとえば、医療制度を考えたとき、英国のような社会主義的制度と米国のようなリベラルな制度では随分と違うが、両国の医療を「社会主義的」「リベラル」という側面だけで検討してしまうと、それぞれの国の医療の在り方の本質を見失っていく。

 同じ英語圏という意味でも、両国の医療の在り方にかなりの共通点もある。プライマリーケアが登録制で人頭払い、アクセスの制限もある英国もある一方で、アクセスは自由であり、一次医療は出来高払いであるものの、病院では予算制をとるフランス(私的病院は日割り計算)やスウェーデン、病院へのアクセス制限はあるがDRGを採用するドイツの例もある。

 第二次世界大戦後NHSというリベラルな国で社会主義的社会保障制度という大きな実験が行われた英国の医療は独特である。その後継続して問題点の解決に取り組まれてきた。英国の医療と聞くと、「長い待ち時間」という側面だけで判断すると、全体が見えてこない。

 また、昨年日本で開催された洞爺湖サミットでは地球規模の健康課題として、「健康システムの強化」が優先事項として話し合われ、「先進国」・「途上国」を含めた、医療や保健制度の在り方が話し合われた。

 「途上国」と呼ばれる国でも、プライマリーヘルスケアを充実させる方向で(別の言い方でいえば広く浅くサービスを提供する方向で)保健サービスの充実を図ってきた国と、統制が利かずに首都の一部の病院など狭く深くサービスを提供する方向で行ってきた国がある。

 これらの国々を比較すると、必ずしも国の財政的な豊かさと、保健指標が相関関係ではないことの理由が見えてくる。

 実際の現象は、単なる「途上国」「先進国」や「社会主義的」「リベラル」という単純化された評価軸では見えてこず、もうすこし複雑なものである。制度的だけでこれだけ複雑であれば、文化・歴史・他の分野との関係など考えれば、さらに複雑となる。

 日本の医療を見直していく上で、現在問題と感じているところを検討していく視点はもちろん必ず必要ではあるが、この問題点だけ近視眼的に検討しているだけでは、「根本的な解決策」や抜本的な解決策」は決して見えてこない。全体像を他国との検討から客観的にみることも不可欠である。

 このように「文脈」をできるだけ考慮した上で、「先進国」や「途上国」というような単純化された枠組みを超えて、ほかの国と日本の医療を比較するとき、改めて日本の医療を客観的にみることができ、日本の医療の中だけからでは全く見えてこなかった日本の医療の全体像が見え、単なる「サルまね」や「医の中の蛙」ではなく、「他山の石」として、日本の医療がよりよくなる方向への戦略や将来像が見えてくるものである。

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