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「私的臍帯血バンク」と倫理性
平岡諦(大阪府立成人病センター血液・化学療法科、日本造血細胞移植学会会員、同・在り方委員会委員)

2009/01/27

ひらおか あきら氏○1969年阪大医学部卒。同大病院助手などを経て、96年から大阪府立成人病センター第五内科(現 血液・化学療法科)部長。2002年からは外来化学療法室の室長兼任。

 わが子の臍帯血を凍結保存する親の気持ちは、わが子を失った親がわが子の細胞一部を凍結保存するのに似ている。クローン技術の開発を心待ちしながら、可愛いクローンわが子をこの手に抱きたい一心で、

 かたや、再生医療技術の開発を心待ちしながら、万一のわが子の難病治療を思いながら。この希望を叶えるため、「私的臍帯血バンク」はこの世に発生した。しかし、そこには他人の子を思う心は微塵もない。

 一方、「移植を希望する全ての患者に公平かつ適正に移植医療を提供するためには、社会が相互に助け合う必要がある」、この理念を持って生まれたのが公的臍帯血バンク・日本さい帯血バンクネットワークである。

 日本の医療は、国民すべてが等しく医療の恩恵を受けられるように「国民皆保険制度」により運営されている。わが子のみを思う「私的臍帯血バンク」で保存された臍帯血による医療は、保存の時点ですでに「国民皆保険制度」の理念には相反するものである。

 したがって、臍帯血の保存料はもとより、保存された臍帯血による医療の費用も当然のことながら自費になる。保存料と共に治療費の出せる国民のみが恩恵を受けられる医療である。

 医療費抑制策のため、「収入による医療格差」が問題になっている。たとえば、健康保険の本人負担分の引き上げなどにより、生活保護を受給はしていないが低所得者の層にとっては、十分な医療サービスが受けられなくなりつつある。この様な時代に、金を持てるものだけのための医療は、生命倫理からみて上等なものではない。

 私的臍帯血バンクができた当初、日本さい帯血バンクネットワークからは警告文、日本造血細胞移植学会からは声明文が出され(平成14年)、安全性、実効性、営利性が問題にされた。この様な事態を受けて厚労省は「臍帯血移植の安全性の確保について」を出して、安全・有効に実施することの周知徹底を指示した。

 日本産婦人科医会報でも「臍帯血の私的保存に注意」を促した。その後の進歩で安全性については余り問題視されることはなくなり、また、実効性についても再生医療技術の発展で近未来に望める可能性が出てきた。問題として残るのは営利性である。

 臍帯血保存料はどれくらいかかるのであろうか。臍帯血バンクの一つである株式会社ステムセル研究所のホームページに掲載されている契約料金は、分離費用147,000円、10年間の保管費用73,500円、10年後の更新料73,500円となっている。

 企業として当然ながら利益を求める。保存臍帯血数を増やすほどに利益が大きくなる。その為には宣伝活動が必要である。設立当初に出された警告文、声明文はいまだ有効であるので、特に企業の信用度の宣伝が重要となる。

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