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メディカルツーリズムの勃興
1ドル95円の為替レートのもとで日本の医療は価格競争力を有する
江原朗(小児科医、勉強会「コアラメディカルリサーチ」主宰)

2009/01/22

えはら あきら氏○1987年北大医学部卒業。91年北大大学院医学研究科博士課程修了。勉強会「コアラメディカルリサーチ」を主宰。ホームページ「小児科医と労働基準」を開設している。

 2006年に受診を目的としてアジアを訪れた外国人患者は180万人に達している。安価で迅速な治療を求めて、アメリカやヨーロッパ等の先進国から途上国へと患者が渡航している。

 現時点では、日本に渡航する外国人患者の数はごくわずかにすぎないと思われる。しかし、1ドル95円の為替レートで医療費を比較した場合、アメリカと比べて日本の医療費は格安である。一方、健康保険の診療報酬が低く抑えられているため、医療機関の経営は厳しく、損益分岐点も100%に限りなく迫っている。

 保険診療制度により安価な医療が提供されているが、医療機関は赤字経営の危険と隣り合わせである。もし、診療報酬の引き下げが行われた場合、公的な保険診療から私的な自由診療、時には海外の富裕者層を相手とした自由診療へと医療機関がシフトする可能性も否定できない。

1.国家間の商品となった医療サービス

 平成19年版の通商白書1)によれば、2006年に受診を目的としてアジアを訪れた外国人患者は180万人に達している。特に、1990年代以降、アメリカやヨーロッパ等の先進国から、南米やアジアの発展途上国に受診目的で渡航する患者が増えている2)。2004年には、13万人がマレーシアに、40万人がタイに、15万人がインドに治療目的で渡航している2)。

 また、各国で受け入れ患者数の増加も著しい。シンガポールでは、患者の受入数が2000年の15万人から2005年の37万人まで増加し(図1)、インドでも年間増加率が30%におよぶ1)。地球規模でみれば、医療も国家間で取り引きされるサービスのひとつになっている。

2.医療が国際商品となった背景

 医療が国際的な商品となりえた背景として、デジタル技術の発達3)と先進国における外国人医師の研修4)があげられる。

 まず、デジタル技術の進歩がある3)。放射線診断の画像診断を海外に外注するとしても、患者を移動させる必要はない。画像データをインターネット経由で送信するだけである。アメリカとインドとの間には半日の時差があるため、夜間に放射線科医を呼び出さずに、24時間体制の画像診断体制が構築できる。 

さらに、アメリカなどの先進国で研修を受ける外国人医師が多いことも、メディカルツーリズムを受け入れる素地となっている4)。途上国の都市部では、先進国で研修を受けた医師が診療を行う病院もある。こうした施設では、医療水準は先進国並みであるものの、人件費が安いために医療費が安価である。

 また、アメリカなどの先進国では、インド人医師やジャマイカ人やフィリピン人の看護師が珍しくない。このため、外国人医師や看護師から医療を受けることに違和感を持たなくなってきている。医療水準の高さ、心理的抵抗感の減少が海外での医療を促進している。

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