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パリの訪問看護師の採用方法と教育プログラム
児玉有子(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門)

2009/01/19

こだま ゆうこ氏○2000年佐賀医大大学院看護学専攻(修士課程)修了。虎の門病院での勤務を経て、佐賀医科大学(佐賀大学医学部)看護学科で助手(助教)として学生教育に携わったのち、現職。

 2008年12月に、パリにあるHospitalisation A Domicile(HAD:在宅入院連盟;Paris)を訪問し、在宅看護師のリクルート担当、看護教育部長ダニエル・マランド氏と看護師長と訪問看護師の採用条件とその教育プログラムについて議論しました。

【HADが求める看護師像】
 採用の絶対条件は「自立していて、柔軟な対応ができ、責任感がつよいこと」の3点です。それ以外の経験年数や経験した看護、疾患の内容ではなく、あくまでも個人の資質を重視して採用しているようです。したがって、稀に新卒者を採用することもあります。このように、HADは自分たちが一から教育し訪問看護師を育てることを重視している点は、日本の看護業界とは異なります。

【HADの看護師リクルート】
 パリでは深刻な看護師不足が問題となっていて、パリ市内で約6000の看護師ポストが空席と言われています。したがって、看護学生の卒業に合わせて就職するだけでなく、条件さえあえば、いつでも就職することが可能です。

 パリでは、医療機関の求人情報に年齢や性別などの条件を提示することは法律で禁止されているため、日本のような採用基準は存在しません。しかし、実際にHADへの就職を希望する看護師は35歳から40歳の人が多く、男女比は1対1で、年齢や性別については一定の傾向を認めます。

 ちなみに、フランス全体の看護師の男女比は大体1対7です。一方、これまでに経験した疾患については、HAD就職希望者の間に一定の傾向はみとめられません。在仏17年の通訳の奥田七峰子さんによれば、「出産や結婚を機に在宅訪問看護師に転職する人が多く、短時間労働で病院勤務に比べ稼ぎが良いことが一つの転職動機になっている。」とのことでした。

【就職後の教育体制について】
 HADに採用が決定したら、採用2ヶ月後までには一人で患者宅へ出向けるよう、集団での講義、およびチューター制によるOJTによるトレーニングなどが採用後教育として用意されます。

 講義は小グループで行われ、コミュニケーションや接遇に関する基礎知識(リレーション学)や化学療法の基礎理論が指導されます。一方、OJTでは、化学療法看護の実践から、ポンプの使用方法や車の運転まで学びます。これら以外の技術の習得ついては、採用時の話し合いで決まります。

 つまり、個人の経験や理解度に応じ、トレーニング期間内に習得すべき内容と達成目標が設定されます。このように個別に決められた内容はきちんと文章で保存され、期限内にクリアしなければ、採用が取り消されることもあります。

 OJTの期間中、訪問看護師は新人とベテランがペアとなって患者宅を訪問します。この際、新人は、まず指導者によるケアの実際を見学します。ついで指導を受けながら実践し、最後は一人で看護できるようになります。このような指導体制は、日本の病棟における看護指導体制と類似しています。

 OJTでは、二人の看護師が患者宅を訪問するのですが、患者の金銭的負担は看護師が一人で訪問するときと変わりません。と言うのは、パリでは訪問看護に対する患者負担は1日190ユーロの定額の包括払い(全額保険から支払われ、患者負担はありません)だからです(ちなみに、疼痛対策のための麻薬処方は包括に含まれますが、抗がん剤は高額であるため、出来高で支払われます)。

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