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医療事故調査4法の私案
民主党案を基盤とした4つの医療事故調査制度
井上清成(弁護士)

2008/12/19

いのうえ きよなり氏○1981年東大法学部卒業。86年に弁護士登録、89年に井上法律事務所を開設。病院顧問、病院代理人を務める傍ら、医療法務に関する講演会、個別病院の研修会、論文執筆などの活動をしている。

第1 医療事故調査4法の立法目的

1 複合的な事故調の目的

 2008年8月20日の福島県立大野病院事件無罪判決を経て、刑事司法が医療に不似合いであることが明らかになった。やはり医療事故調査制度の整備こそが必要であろう。しかし、厚生労働省が提示した医療安全調査委員会構想(第三次試案や設置法大綱案)は、余りにも決定的な欠陥を抱えているし、多くの弊害が予期される。

 その根本的な原因は、いくつもの複合的な目的を1つの委員会で実現しようとしていることに帰着すると思う。この機会にその根本に立ち戻り、検討し直すしかない。

 目的を患者遺族側と医療者側に分けてみよう。患者遺族側の目的には、精神的側面と経済的側面がある。精神面では、患者遺族の納得であり、経済面では、医療災害の補償といってよいであろう。また、医療者側の目的には、過去を清算する側面と将来を指向する側面がある。

 過去の側面では、当該医療者の処分・非難であり、将来の側面では、医療安全の向上・再発防止といってよい。よく「責任追及」というのは、前者の「当該医療者の処分・非難」を指す。

 このように医療事故調査制度の複合的な目的は、分析すると4つに分けることができよう。

2 4つの目的の分析

 これら4つの目的は互いに、必ずしも相性がよいわけではない。むしろ相性が悪く、敵対関係にあるとも評しえよう。今までの事故調論議の欠陥は、相性の悪い4つの目的を1つの制度で同時に合わせて実現しようとしたことにある。厚労省の医療安全調査委員会構想は、その典型であった。

 今後は、今までの議論の成果から学び、冷静に分析して、医療事故調査制度を構想し直すべきである。つまり、相性の悪い4つの目的をリンケージさせてはならない。それぞれを分断して構想すべきであろう。

 端的に結論を述べれば、1つの目的に対応して1つの医療事故調査制度を考えればよい。合計4つの別々の医療事故調査制度を創設すればよいのである。そして、4つの制度を互いにリンクさせてはならない。

3 4つの医療事故調査制度

 それぞれの目的を実現するためには、それぞれの目的に即した事故調査、つまり原因究明が必要である。

 まず、患者遺族の精神的な納得を得るためには、その患者遺族の納得の得られていないレベル(段階)に応じた原因究明が考えられねばならない。事後の一応の説明で満足が得られればそれで終わるが、満足が得られずに要求が出ればカルテ開示や一層の医学的説明をし、もう一歩の検査の要求があればAiをし、解剖の要求が出れば病理解剖をし、不信感がある場合の解剖では法医による解剖をし、さらなる究明を求められれば第三者の中立的専門機関による原因究明をする。

 つまり、重要な着眼点は、あくまでも患者遺族の納得が得られることが大切なので、それぞれの患者遺族の要求レベルによって段階が変化し、全例が一律ではない。患者遺族の原因究明の要求度合いは区々なので、すべてが解剖ではなく、すべてがADRでもなく、もちろん、すべてが事故調でもないのである。

 他方、患者遺族の経済的補償をするためには、「通常は避けられえた死亡」(法律用語では、結果回避可能性)であったかどうかの原因究明が必要だし、かつ、それで足りるであろう。ただ、これは典型的には公平な救済を旨とする無過失補償制度であるが、その導入には、民事軽過失免責や刑事過失犯排除も必要となる。

 医療者側で重要なこととしては、同じ医療人として、同僚・同業の者に対して厳しい目を向けなければならないことであろう。自立的懲戒制度とか自律的処分制度とかいわれるもので、医療者自らで自らを律するのがベストである。しかし、これは医療者側の医療行為に対してだけ着眼して行われるべきことであり、患者遺族側からの責任追及の形をとって行われるのは芳しくないであろう。

 つまり、精神的な患者遺族の納得や経済的な金銭補償とリンケージさせて行われるべきことではない。それらとは分断させ、あくまでも医療者自身の過去の清算としてなされるべきことであろう。

 医療側の再発防止・医療安全向上は、症例の性質に応じて、Aiや解剖などが使い分けられねばならない。学問的意味合いや、再発のリスク・重大性などに応じて区々なのである。再発防止のための原因究明も、患者遺族の精神的な納得と同様、やはり全例すべて同じではない。

4 効率と知恵

 以上のように、1つの医療事故調査制度によってではなく、4つの別々の医療事故調査制度によって、互いにリンクすることなく、4つの別々の目的をそれぞれ別々に実現すべきものと考える。なかには、これでは非効率と考える人もいるかも知れない。

 しかし、全例解剖して調査報告書を作るわけでなく、必要に応じて行うにすぎないので、逆にかえって効率的である。また、1つの事故調査結果をすべての側面に流用しようというのは、机上の理論にすぎない。大切なのは事柄の性質に応じて個別に対処するという、紛争解決の知恵であると思う。

図1 4つの医療事故調査制度の概要


患者支援法案(私案1)

Ⅰ 医療法の改正

第1 医療法第1章(総則)関係

(1)医療従事者の責務として、診療その他の医療の提供につき、患者からの求めに誠意をもって対応すること及び患者の理解と自己決定に基づいた医療を行うことを加えること。

(2)その他基本理念の改正、国及び地方公共団体の責務の改正等を行うこと。

第2 医療法第2章第1節(医療に関する情報の提供等)関係

1 診療記録の開示及び訂正等

(1)患者又はその遺族は、当該患者の診療に係る診療記録について、当該診療に係る医療機関の管理者に対し、その開示を請求することができるものとすること。

(2)医療機関の管理者は、開示請求があったときは、当該開示請求をした者に対し、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、当該開示請求に係る診療記録を開示しなければならないものとすること。

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