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第44回日本移植学会総会に参加して
移植医療を支える精神科医と移植内科医
田中祐次(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任助教)

2008/12/12

 2008年9月19~21日、大阪国際会議場で開催された第44回日本移植学会総会に参加しました。私自身は血液内科医として骨髄移植に係わってきましたが、移植学会では、骨髄移植のような内科医が中心に行う細胞移植よりも、肝臓、腎臓、心臓、肺、小腸、膵臓など外科医が中心に行う臓器移植が話題の中心になっています。そうしたなかで、自分が興味を持った移植患者の心理面と移植内科医をテーマとしたシンポジウムに参加しました。

 移植患者の心理面に対するテーマの中で、21日のシンポジウム9「移植成功後レシピエントの精神、心理社会的ケア」では、精神科の福西勇夫医師らによって提唱された逆説的精神症候群(PPS: Paradoxical Psychiatric Syndrome)の存在が強調されていました。

 患者が母親、ドナーが息子で行われた生体肝移植において、肝移植は成功し移植後経過も順調であるにもかかわらず、移植後3週目より移植患者本人に不安や抑うつなどの精神症状が発症していることを報告しました(1)。移植医療の成功にもかかわらず患者本人が精神的に落ち込んでいることから逆説的という名称になりました。

 シンポジウムでは福西医師よりPPSの典型例として、患者の不安が移植後にいったん軽減するものの、その後再び不安が募る症例の心理変化を図で表したものが提示されました。このような不安や葛藤は言語化されないことが多く、そのために患者に描いてもらった家、人、木などの絵から患者自身に潜んでいる不安などを見つけ出す手法が披露されました。

 近年、移植医療の心理面の研究や臨床を通じて、移植患者に対する心理面のサポートの重要性が認識されてきました。シンポジストの一人である京都大学精神科野間俊一医師も自身の発表の中で2001‐2003年は臓器移植患者とリエゾン的係わりを持ち、移植患者の術前術後の面談も行った経験からPPSの症例などを報告しました。

 2004年からはコンサルトとして係わるように変化したそうです。リエゾンは心理的な問題が起こる前から精神科医師が移植チームの一員として患者に係わりを持つのですが、コンサルトは心理的な問題が生じたときに移植チームから精神科が相談を受け、依頼された場合のみ精神科医が患者と面談を行うという係わり方の違いがあります。

 精神科医の係わりがリエゾンからコンサルトに変わった理由に関してのフロアから質問が出ましたが、精神科医師が移植患者にどこまで係るべきか現時点で不明であり、そのために精神科の係わりが移植医療を阻害してはいけないと考えていると、野間医師、福西医師が答えていました。

 私自身が骨髄移植を行っていた東京大学医学部附属病院や東京都立駒込病院では、精神科医もしくは心療内科医が移植前からリエゾンとして係わっていました。ある時、移植後に無菌室内で感情失禁を生じた患者がいました。

 その際は私だけでは十分な対応ができず、精神科医が一緒に対応してくれました。さらに、精神科医より私を含めた医療スタッフがどのように患者に対応するべきか指導がありました。精神科医の的確なアドバイスと看護スタッフも含めた全員で患者に対応することで、私や看護師の患者に対する対応も統一でき、患者にも安心感を与えることができました。患者も、私や看護師へ頼ることで落ち着きを取り戻してくれました。

 このような経験からも、精神科医や心療内科医が移植患者に係わりを持つことは患者だけではなく医療スタッフにとってもとても重要だと実感しました。

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