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医療とメディアの新しい関係
メディアは医療を殺すのか、それとも生かすのか??
成松宏人(日本対がん協会がん対策のための戦略研究推進室室長補佐)

2008/12/09

なりまつ ひろと氏○1999年名大医学部医学科卒業。2008年名大大学院医学系研究科分子細胞内科学(血液・腫瘍内科学)修了。2008年4月より現職。

●医療とメディアの関係について再考してみましょう

 最近でこそ、いろいろなメディアで「医療崩壊」について取り上げられるようになり、勤務医の過酷な実態などが報道されるようになりました。しかし、つい最近までは、メディア報道の多くは「医療不信」に関するもので医師がたたかれる場面も多くありました。

 もちろん、医療者側にも問題があったのでしょうし、本稿の目的でないのでこのことについてこれ以上議論することはしませんが、医師医療者にとってメディアとの距離が広がった時期であったことは否めません。筆者自身も長く臨床現場で働いていましたが、「(うまくはいいあらわせないけど)なんか違うな」というような漠然とした違和感を抱いていたことを覚えています。

 このような、いきさつがあったからか、学会などで医療メディアの関係を科学的に議論する機会は、筆者の知る限りほとんどありませんでした。ところが、最近、筆者らが医療とメディアに関して議論したボルテゾミブの事例研究がJournal of Clinical Oncology誌(電子版)に、そして、ほぼ同時期にJournal of the National Cancer Institute(JNCI)誌にがん医療に対するメディアの影響と題したSharma氏による論説がそれぞれ掲載されました。両誌とも世界のがん研究者に最も読まれている学術雑誌です。

 これは、世界のがん研究者が医療とメディアの関係について注目しはじめていることを意味しています。そして、私たちもそろそろ医療とメディアの関係について考える時期になってきたのだと思います。そこで、本稿では二つの論文の内容を紹介させていただき、今後の医療とメディアの関係について再考してみたいと思います。

●重大な副作用が臨床試験内・外の協力で克服されたボルテゾミブの事例

 ボルテゾミブ(商品名:ベルケイドR)は多発性骨髄腫に対する有望な新規薬剤で、2003年5月に米国FDAに承認されました。日本でも2004年5月より日本における発売元によって日本における承認を得るために臨床試験が開始されました。

 ただ、臨床試験は非常に厳格な参加の基準で限られた施設で行われるため、臨床試験に参加してボルテゾミブの投与を受けられるのはごくごく少数の患者でした。臨床試験にエントリーできない、投与を希望する患者に対しては、適切だと考えられる患者にのみ医師により個人輸入されたボルテゾミブの投与が行われました。

 このボルテゾミブ投与後に一部の患者に肺障害が起こること明らかになったのは2005年10月です。今までの海外の投与の実績からはほとんど報告がなく、日本人特有の副作用かもしれないと大騒ぎになりました。

 このことは、まず、個人輸入でボルテゾミブを投与していた宮腰重三郎医師(虎の門病院)らのグループがこの存在に気づき医薬審査機構(PMDA)や関連学会などに報告したことが発端でした。この後臨床試験内でも同様な患者が発生していたことが明らかになりました。

 ボルテゾミブは日本で市販されたのはこの約14ヶ月後です。この短期間に医療関係者、PMDA, 製薬会社、輸入代行業者などの連携で、投与の適正化が図られました。具体的には、製薬会社によって情報の公表、輸入代行業者による注意喚起が行われると同時に、医師による自発的報告に加えて関連学会による肺障害に関する全国調査が行われ、それら結果がインターネット上および学術誌上に速やかに公開されました。それだけではなく、さらには、この合併症が朝日新聞紙上で岡崎明子記者によって報道されました。

 同時に、MRICや日経バイオテクなどの医療専門のオンラインメディアで報道されました。結果として市販後には肺障害の発症率は激減しています。

 この事例では、様々な種類のメディアが早い段階でこの問題を取り上げたことがこの問題の解決に大きな役割を果たしました。たとえば新聞一般誌のようなマスメディアは、医療者だけでなく、患者・家族がボルテゾミブの副作用を認識することに貢献しました。

 また、医療専門のオンラインメディアは、対象は医療関係者に限られますが、大衆メディアが提供する情報よりも、より正確で詳細な情報を、専門分化した医療界に分野横断的に情報を伝えました。このように、様々なメディアが既存の学会誌や学術集会を介した情報流通を補完した結果、短期間の間に肺障害の情報が周知徹底されました。

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