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「医療崩壊」と職業倫理
「医は仁術」、「応招義務」そして過労死
平岡諦(大阪府立成人病センター血液・化学療法科)

2008/12/09

ひらおか あきら氏○1969年阪大医学部卒。同大病院助手などを経て、96年から大阪府立成人病センター第五内科(現 血液・化学療法科)部長。2002年からは外来化学療法室の室長兼任。

 現在の医療危機は「医療崩壊」(1)と呼ばれている。患者にも医者にも不幸な事態である。低医療費政策、患者からの不信感、および医師法第21条を介した検察の介入が主な原因と考えられ、その対応が模索されている。後二者と職業倫理との関係を、前稿(2)において考察した。

 本稿では、「医療崩壊」の最重要原因である低医療費政策の結果である過重労働・過労死と、「医は仁術」、「応招義務」との関係につき考察する。「医療崩壊」の現場は主に病院であるので、主として病院勤務医についての考察である。

 結論を先に述べると、いわゆる「応招義務」規定が「医療法」でなく「医師法」に述べられていることが諸悪の根源である。そして、根本的な解決策はこの規定を「医療法」に移すことである。

1:医師法と医療法について

 はじめに医師法と医療法について、その成立時期の状況を考える。

「占領政策における成功例として農地改革がよく知られているが、医療福祉改革のことは意外に知られていない。ジャン=ジャック・ルソーは「一国の文化水準は、出生率と死亡率の割合によって測られる」といい、単独講和を押しすすめた吉田茂首相に対して、東京大学総長南原茂は「文化の発達の指標は必ずしも学問や芸術ではなく保健衛生状態である」と述べている。

 また、国際人権規約第12条は、締約国に「すべての者が到達可能な最高水準の身体および精神の健康を享受し得る権利を有する」とし、具体的には「死産率と幼児の死亡率の低下、児童の健全な発育推進の政策、環境衛生および産業衛生の改善、伝染病・風土病・職業病などの予防・治療・抑制、病気の場合、医療および看護を確保し得る条件の創出など」を義務付けている」(3, p.307;「解説」より)。

「『貧乏人も金持ちも等しく良質な医療を受けられるシステムの構築』というGHQ公衆衛生福祉局長クロフォード・F・サムス准将の改革理念」(3, p.2;「新版の出版に寄せて」より)に則って戦後日本の医療制度・医学教育の改革が進められ、平均寿命・健康寿命ともに世界一位となる現在の医療制度が築かれた。

 この改革の中で施行されたのが「医師法」であり「医療法」である。「医師法」は医師の資格基準を、「医療法」は病院基準を規定した法律で、ともに昭和23年7月30日に成立している。

2:「応招義務」規定の背景

 いわゆる「応招義務」は、医師法第4章 業務;第19条に述べられている。昭和23年7月30日制定当時のまま現在に至っている。その内容は「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」である。

 この規定の由来・歴史は次のように記載されている。「現在の医師法の規定は明治7年の「医制」中に萌芽があり、明治13年制定の旧刑法第427条9号、昭和17年の国民医療法第9条を経て今日に至っている。応招義務に関しては旧刑法以来、抑留、科料などの罰則規定がおかれていた。

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