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第4回「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期研修制度)のあり方に関する研究」班会議傍聴記
ビジョンどころでないという現実
川口恭(ロハス・メディカル発行人)

2008/11/26

 報告に時間差ができてしまったけれど、実際には第三回臨床研修検討会の1時間後の話である。全国医学部長病院長会議の代表として小川彰・岩手医大学長が1時間ほどプレゼン。嘉山孝正・山形大医学部長も一緒に検討会からハシゴして来た。

 このプレゼンで驚いたというか認識が足りなかったと思ったのは、いわゆる地域の医療過疎の深刻さ。人口あたりでは医師がいても、面積あたりにすると大変なことになってしまう。たとえば、岩手県に9つある2次医療圏の1つ「宮古医療圏」は、面積が東京都全体の1.2倍あるのに病院が4つしかなくて(ちなみに東京には658病院、23区だけで436あるという)総合病院は1つだけという。

「岩手にはタライ回しはない。回すだけのタライがない。断ったら死ぬしかないので、必ず搬送を受けて、手に負えない時は盛岡まで送る」。この1つしかない病院が崩壊したら、と想像するだけで恐ろしい。

 プレゼンはかなり長かったので、質疑応答で議論になった部分を断片的に拾っていくことにする。

「国民の求める医師像が間違っているのでないか。もはや赤ひげの時代ではない。地域の理想の医師とは、

(1)一般の処置ができ
(2)救急処置ができ
(3)専門医が必要な時は速やかに連携できるような診療判断ができ
(4)専門性を持っている、

これでないか。

(4)については、医師自身のインセンティブを考えた時に必要だと思う。先ほども嘉山先生と話していたのだが、こう考えると問題は内科の先生。たとえば消化器内科の専門はあっても高齢者の肺炎も急性腹症も糖尿病も診られるというような必要がある」

「外科の志望者が3分の2になっている。このままいくと盲腸のような急性腹症でも手術できずに死ぬような時代が来る」

「若い医師の仕事の選択基準で、ずっと右肩上がりなのは、時間の自由が効くかどうか。全年齢で大学病院の労働時間が長く、それが大学病院離れのひとつの原因になっている」

「外国と日本とでは医師の置かれている状況が違う。診療科によって全然インカムが違って、ファミリープラクティスは一番下だ。米国で各学会が専門医のバースコントロールをしているのは、自分たちのインカムを下げないため。必要性から議論されているわけではない。

 日本のどういう医師でもインカム同じという悪平等の不平等の中で、その家庭医についても、国民の求める医師像からして本当に求めているのだろうか。安易な増員には反対だ。社会制度の基板なくして専門医・家庭医は語れない」

土屋
「家庭医の安易な増員には反対と仰ったが、家庭医と言った場合に実は皆さんの描くものがバラバラだ。果して何を基準に合わせるか。小川先生の『理想の地域の医師像』、これは日本の土壌を考えると家庭医と呼んでいいのでないか。米国の専門性に欠けたファミリープラクティスとは違うと解釈したい」

阪井
「2点伺いたい。臨床研修の影の部分を強調されて、たしかに地域医療崩壊の大きな原因なんだろう。しかし果たして以前の状況、大学の専門科に入っている医師が交替で僻地を支えるというのは、医師にとっても地域の患者にとっても良かったのか。お互いにあまりハッピーな状況でなかったような気もする。それを臨床研修が顕在化してくれたとも言えるのでは」

小川
「少なくとも医師数からすると、全国医学部長病院長会議のデータからすると、以前は大学に70%くらい残ってたのが人口50万人未満の都市しかない県については30%まで下がっている。その人達がすぐに地域医療のお手伝いをできるわけではないけれど、その人たちが大学に入った分、専門医を取ったばかりぐらいのがグルグル回っている。

 ドクターバンクというお笑いのような話があるが、岩手の地域医療支援委員会は大学にあって私が委員長だ。でも、誰を出せばいいかというのは私には分からない。医局がクオリティコントロールをやっている。1人で地域を任せても大丈夫かというようなこと。それから人間の世の中だからA君とB君を一緒にすると取っ組み合いの喧嘩になりかねないからできないとかいうような。

 専門医取ったばかりだから地域へ行きなさい、その代わり3年後で子供さんが高校生になる時には都会に戻すからというような。それが今全くなくなっちゃった。地方において絶対的な医師の不足は見えている。臨床研修で1万5千人の医師が消えちゃったんだから」

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