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日本版総合医は漢方を活用すべきである
渡辺賢治(慶應義塾大学医学部漢方医学センター長)

2008/10/22

わたなべ けんじ氏○1984年慶応大医学部卒業。北里研究所東洋医学総合研究所、慶応大医学部東洋医学講座准教授を経て2008年4月より現職。

 MRICの臨時vol.133で紹介された「医療における安心・希望確保のための専門医家庭医(医師後期研修制度)のあり方に関する研究」班会議の記録もしくは研究班ホームページをご覧いただいた方も多いかもしれない。

 その中には「産婦人科、小児科、救急などは分かるが何故漢方なのだろう」と疑問を持たれた方もいらっしゃるのではなかろうか?そうした方々に何故漢方なのか、という説明責任があると考え、本稿を記す。

 本研究班は「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会の発展形として発足した。目的はホームページで土屋班長が紹介しているが、「様々な立場の医療者が議論・検討を重ねることにより、医師の教育研修内容、つまり、国民がいかなる人材を望んでいるかという中長期的ビジョンと医療現場の現状を見据えた上で、各診療科の研修、家庭医・総合医の養成、在宅医療の教育、専門性の教育など、具体的な後期臨床研修制度のあり方について喫緊の課題として調査研究を行う」ことである。

 班の名前にもあるように専門医・総合医(家庭医)双方について後期研修のあり方を検討するのが目的である。「総合医」に関しては少し用語の混乱があり、家庭医、総合医、プライマリケア医、総合内科医など様々な名称で呼ばれていて統一されていないが、その意味するところは同じである。

 すなわち地域に根ざし、日常診療の8割を占めるcommon diseaseを高いレベルで診断・治療し、各領域の専門医と連携する。この場合地域の診療所で開業している場合もあるし、病院で総合診療を行うホスピタリストの場合もあろう。

 ではどうしてcommon diseaseの診療に漢方が必要なのであろうか?項目を分けて説明させていただきたい。

1.医師の8割が日常診療で漢方を用いている。

 明治政府が医制を布いた1968年、数百年にわたってわが国の医学の主流であった漢方に代えて、西洋医術を採用したことで、数ある漢方医の団体は姿を消した。1874年には西洋七科(理科,化学,解剖,生理,病理,薬剤,内外科)を定める新医制が布かれ、1883年には医術開業試験規則および医師免証規則を定めていった。

 これに対し漢方団体はさまざまな抵抗運動をし、政府議会への請願を行ったが、最終的に漢方医側提出の医師免許改正法案が議会で否決され、そして指導者の相次ぐ逝去に伴い、明治三十五年(一九〇二)には漢医存続運動はまったく終焉してしまう。いわば長い伝統を有する自国の医学である漢方を、富国強兵・脱亜入欧の政策の中で棄て去ったともいえる。

 しかしながら漢方は少数ながら綿々と医師・薬剤師が継いできて、1976年に大々的に医療用漢方製剤の登場を見るのである。その後漢方を使用する医師は漸増し、最近の日経メディカルの調査では医師の8割が漢方を日常診療に用いるほど普及している。

 日経メディカルでは年2回定期的に漢方特集を組んでおり、使用状況超差を定期的に行っているが、大学病院勤務医師、病院勤務医師、開業医師ともにどの分野においても7割以上の医師が用いている。

 一番多いのは産婦人科であり、9割以上である。最近では大建中湯が外科領域で用いられていることが多く、慶應大学病院の場合大腸がんの術後クリニカルパスに入っているため、外科を回る研修医は全員漢方に触れることになる。

 では実際にどの程度の国民が漢方を服薬しているのであろうか?OTC薬は漢方市場の2割を占め、最近ではメタボ対策の和漢箋、ナイシトールといった市販の漢方薬が売上を伸ばしているし、漢方便秘薬などと「漢方」がつかなくてもカコナールやコッコアポSといった商品名で売られている中にも漢方製剤が数多く存在し、その実態の把握はできていない。

 医療用漢方製剤に関しても実数を把握することは困難であるが、株式会社ツムラから提供していただいた資料では感冒に用いる漢方薬の売り上げから一人5日処方された場合と想定して延べで1700万人が使用していると推察された。その他の疾患を合わせればもっと多いことは言うまでもない。

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