日経メディカルのロゴ画像

医療安全調査委員会法案が非急性期医療(慢性期医療、精神科医療、終末期医療、在宅医療など)に与える影響
精神科現場からの提言
吉岡隆興(細木ユニティ病院精神科部長)

2008/10/14

 この提言は医療安全調査委員会法案の施行後の近未来像を予想したとき、日本社会が崩壊し、暴動さえ起こりかねないと危惧するゆえに提示するものである。

<一言で言えば急性期医療を精緻化し、敷衍化すれば慢性期医療が崩壊するということ>

 今回の医療安全調査委員会問題は医師法第21条問題と度重なる医療問題、なかんずく福島県立大野病院事件の出現に対して、日本医師会と厚生労働省の思惑に一致がみられ進められたものであることは周知の事実であろう。

 ここで日本医師会としても何とか医師の訴追を免れようと、また専門的判断を優先できるようにとの意気込みにて努力をしたことは明白である。担当者の方の努力は大いに多とするところである。

 ただ如何せん、ことは厚生労働省の権能を超えたものであり、また司法における強固な現実指向性に翻弄され、その実施大綱案は、日本社会にとって破滅的なものとなっている。

 司法においては、現実性、精緻性、統一性が根本原理であるのに対して、医療界は、創造性、不確実性、独立性の中で発展してきたものであり、また日本医師会が職能集団と言うより、平たく言えば生活集団であることを考えれば司法界に対抗するすべはなかったのも無理はない。

 しかし厳しく言えば、救急医療や医療の最下流を支える現場(慢性期医療、精神科医療、終末期医療、在宅医療など)を全く判っていないことが致命的であった。この法案が通過すれば、日本の慢性期医療、終末期医療、在宅医療、精神科医療は壊滅する。そしてその結果、急性期医療も崩壊する。最下流の支えが崩れたとき、すべての医療が崩壊し、社会が崩壊する。老人介護のための激増する自己負担金、家族労働負担は絶望的レベルとなり、入院を政府に強訴するか、暴動が起こる可能性が高い。政府は倒れる。

 ところが日本全国の医師がこの法律の社会的影響が見えていない。医師会も全く理解していない。また厚生労働省、国会議員も然りである。以下のことが現実問題となる

社会システムから見て

(1)統一的終末期医療の強制(全員胃瘻と人工呼吸器の強制)
(2)高齢者はすべて総合病院へ入院せざるを得ない
(3)満床で壮年期が治療を受けることが出来なくなる
(4)在宅医療の崩壊。ホスピスの廃止
(5)膨大な数の日本国民の中堅層(壮年期)の生産現場からの離脱
(6)老人の介護のため生活破綻、家族の崩壊 出産数の減少
(7)爆発的な高齢者医療費の増大(数兆円の規模で増大)
(8)多量の高齢認知症患者の地域での放置、虐待、殺人
(9)慢性期の患者を担う医師の訴追(数万件)
(10)精神科医療の崩壊、単科病院の崩壊
(11)介護保険制度の崩壊
(12)医師は慢性期医療から撤退する。
(13)その人なりの死に方や尊厳死などの概念さえ日本から消滅する

この記事を読んでいる人におすすめ