日経メディカルのロゴ画像

福島大野事件判決解説1
結果回避義務について~医療事故と交通事故の違い~
大岩睦美(医療・法律研究者)

2008/10/09

1 過失とは

 業務上過失致死傷罪などの過失犯は、過失により結果(人を死傷させること等)を生じさせることにより成立するが、ここに過失とは、行為者が自らに課せられた注意義務に違反することをいう。この注意義務は、具体的内容として、結果の発生を予見すべき義務(結果予見義務)と結果の発生を回避すべき義務(結果回避義務)の二つに分けることができる。

2 結果予見可能性、結果回避可能性

 そして、結果予見義務と結果回避義務があるというためには、それぞれの論理的前提として結果発生の予見可能性及び結果発生の回避可能性を考えるのが一般的である。実務上は、結果予見可能性が存すれば結果予見義務があり、結果回避可能性が存すれば結果回避義務があるとされる。

 すなわち、「過失がある」(注意義務に違反する)と認められるには、(1)結果予見可能性、(2)結果予見義務、(3)結果回避可能性、(4)結果回避義務の各要件が検討されることとなるが、実務上(検察官の立証上)は、(1)が認められれば(2)は当然に認められ(3)が認められれば(4)は当然に認められることとなるため、(1)と(3)が立証されれば足りることとなる。

3 一般的な過失犯の事例

 よそ見運転で人を轢いてしまったという自動車事故の例を考えてみると、

(1)結果予見可能性:よそ見運転をしたら人を轢いてしまうかもしれない
(2)結果予見義務:「よそ見運転をしたら人を轢いてしまうかもしれない」と予見すべき
(3)結果回避可能性:よそ見運転をしなければ人を轢かなかったかもしれない
(4)結果回避義務:よそ見運転をしてはいけない

となる。

 自動車事故の例では、わざわざ危険な行為を行うことが必要となる理由はないのであるから、結果の発生を予見し回避することができるのであれば、予め結果を予見しこれを徹底して回避しなければならないのであり、つまり、予見可能性、回避可能性さえあれば、予見、回避する義務が生じるのは当然のことと言える。

4 医療行為の場合

 では、医療行為においては、

(1)結果予見可能性:手術したら合併症で死んでしまうかもしれない
(2)結果予見義務:「手術したら合併症で死んでしまうかもしれない」と予見すべき
(3)結果回避可能性:手術しなければ合併症で死ぬことはなかった
(4)結果回避義務:手術してはいけない???

となることから、(1)~(3)が満たされるからといって、当然に(4)の結果回避義務までも当然に認められてしまうと、危険を伴う医療行為を医師は一切行えないこととなり、不合理となる。

この記事を読んでいる人におすすめ