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分娩施設の集約化について
有床産科診療所に明日はないのか?
衣笠万里(兵庫県・尼崎医療生協病院)

2008/09/24

きぬがさ まさと氏○1984年神戸大医学部卒業。兵庫県立成人病センター(現・がんセンター)、兵庫県立柏原病院を経て現在尼崎医療生協病院産婦人科部長。

 当分解消されそうもない産科医不足を補うために国(厚生労働省)や産科婦人科学会の指導者たちは「分娩施設集約化」を推奨している。平成17年に厚生労働省が発表した「小児科産科若手医師の確保・育成に関する研究」報告書1)でも、分娩の集約化・センター化が強く謳われており、「それまでの”移行期”において一次医療機関である有床産科診療所を保護する」という表現が用いられている。つまり有床産科診療所はいずれ消えゆく運命にあるということだろうか?

 確かに都市部では限られた面積内に多数の周産期施設が分散していて、多くの施設で1人ないし2,3人の常勤医師が長時間病院や診療所に縛り付けられているという状況は非効率に思える。

 個人のプライベートタイムの確保や危機管理の観点からは、少なくとも5-6名以上の常勤産婦人科医師が交替制で夜勤や休日勤務にはいり、新生児専門医や麻酔科医および手術室スタッフも常駐している環境が望ましいであろう。

 ただし医師が若い間はそれでよくても長年勤務していると、いずれ宮仕えに飽き足らず独立開業の道を模索する者も当然出てくる。そのためにオープンシステムによる病診連携も推奨されている。しかしオープンシステムにも問題はないのだろうか?

 米国では産婦人科医師の約80%が開業するが、多くの医師がオープンシステムのもとで病院と契約を結んでいて、自分のクリニックで健診を受けていた妊婦が病院で出産するときには、そちらに出向いて立ち会っている2)。もちろん分娩は昼夜を分かたないので、外来患者の診療中でも夜間・休日でも急遽病院へ駆けつけねばならない。

 危機管理の点では安心感はあるが、院所間の移動距離を考えれば日本の開業医よりもむしろきついかもしれない。実際には複数の医師が共同で開業して代診を頼んだり、開業医が間に合わず、病院のレジデントだけが分娩に立ち会ったりすることもある。

 このような診療形態が成り立っているのはある程度産科医療が標準化されていることが前提となっている。ただし米国での標準化は過剰とも思える医療介入の増加の方向へ向かっている。帝王切開率はすでに30%近くに達しており、陣痛誘発率も20%前後に至っている(誘発率が高い州では40%以上に及ぶ)3)。

 分娩の途中から陣痛促進する症例もあるので、自然陣痛のみによる正常分娩は全体の半数以下となっている施設も少なくない。もちろん過剰な医療の介入には健康上のリスクが伴うことも考慮せねばならない。

 病院に多数の産科医師(レジデントを含む)とともに新生児専門医や麻酔科医および手術室スタッフが24時間365日常駐しているのは心強いが、それ相応のコストを要する。米国の私立病院での分娩費の多くは1-2万ドル程度(100-200万円以上)とされていて、日本の3倍以上である。

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