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私は医者という仕事をまっとうしたいので患者の立場には立ちません
小鷹昌明(獨協医科大学神経内科)

2008/09/18

おだか まさあき氏○1993年獨協医大医学部卒業。現在、獨協医科大学病院神経内科講師ならびに医局長。専門は免疫性末梢神経疾患の病態および治療。

 難病の患者から、「あんたみたいな健康な医者に、俺の苦しみや恐怖がわかってたまるか」というようなことを言われたと仮定する。そんなとき私はこう答えるであろう。

「おっしゃるとおりです。私は健康ですし、あなたではないのですからあなたの苦しみや悲しみを体験することもできないし、本当の意味ではわかりません。

 しかし、私もこの世界で十何年生きてきて、自分なりに過去の悲しい経験を基にあなたのつらい気持ちを推測するべく日々努めています。医師とはそういうものであると、いつも自分に言い聞かせています。

 しかし、仮に私があなたと同じ気持ちを体験できて、同じくらいに苦しんでいたら、きっと私はあなたのために知恵を絞ることも、悩みを聞いてあげることも、優しくすることもできなくなるでしょう。"一肌脱ごう"という気持ちの余裕もなくなるでしょう。

 それこそあなたと同じ、自分のことで精一杯になります。だから今の私は、あなたより苦痛が軽くなくては使命を果たせないのです」

 また、脳卒中で入院した患者から、「たばこを減らせ、酒をやめろと言う医者には腹が立つ。もしやめることによって、俺の命が1年延びることが保障されるのならやめてやってもいいが、その保障もできないくせに何度も同じことを言うな」というご指摘も受けたことがある。まったくその通りである。医療が不確定、不確実であることを逆手に取って批判される。

 医療行為に確実性がないのであれば、仮に医療を厳守したからといって病気が回復する可能性もまた未知なのである。そんなとき私はこう答えるであろう。

「おっしゃるとおりです。たばこを吸うと一定の割合で脳卒中再発の危険が増えることは証明されています。しかしながら、私も過去の経験において、治ると思っていた患者が急死したり、もうだめだと思っていた患者がすっかり良くなったりする人などを診るにつけ、仕事柄、科学というものがいかに頼りないかということを身をもって体験しています。

 したがって、あなたがどうなるかは誰もわかりません。医者の責任逃れと都合で、"たばこは減らした方がいいですよ"と言っているだけです。守るか守らないかはあなた次第です。

 しかし、病気になったことでひとつのけじめを付けてもいいのではないかと考えています。たばこやお酒を今まで通りお続けになれば、以後のあなたの人生はきっとどこかで投げやりな気持ちになり、安易な方向に流れやすく、いざというときに、"どうせ"と思う気持ちになってしまうような気がします。

 それは、人間の営みから感激や情熱といった包容的な要素が欠落してしまうような気がしますから、ここはひとつ騙されたと思って、禁煙に取り組んでみる価値はあるのではないですかと提案しているだけです。 

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