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救急医の刑事免責に関する大村私案について
小松秀樹(虎の門病院泌尿器科)

2008/08/19

こまつ ひでき氏○1974年東京大学医学部医学科卒業。虎の門病院泌尿器科部長。

●自民党で検討開始
 報道(毎日新聞2008年7月30日東京朝刊)によれば、自民党は7月29日、救急救命に関係した医療事故について、事故を起こした医師らの刑事責任を免除する刑法改正の検討を始めた。

 自民党の「医療紛争処理のあり方検討会」で、座長の大村秀章衆院議員が、刑法の業務上過失致死傷罪の条文(211条)に「救急救命医療により人を死傷させたときは、情状により、刑を免除することができる」との特例を加える私案を示した。この検討会で配布された資料に記載された特例の趣旨を以下に示す。

 救命救急医療においては、重篤な救急患者に対して、緊急に救命処置を行う必要があり、かつ、専門領域以外の重篤な救急患者に対処することも多いことから、事故と隣り合わせの状況と言える。

 このような特殊性を有する救命救急医療において、他の分野と同様に刑事責任を問われる可能性があることが、救命救急医療に携わる医師の萎縮を招き、現在の救命救急医療の危機的状況の一因との指摘がある。

 このため、救命救急医療に携わる医師が安心して医療を行うことができるよう、救命救急医療における刑事処分について、特例を設ける。

 本稿は大村私案によって、「医師が安心して医療を行うことができるよう」になるのかどうか、法的観点から若干の検討を加えるものである。なお、本稿の作成にあたり、法律の専門家から協力を得たことを付言しておく。無論、文責は全て筆者が負うものである。

●大村私案の法的意味
 まず明らかにしなければならないのは、「情状により、刑を免除することができる」との文言の意味である。これは、刑の任意的(裁量的)免除を規定したものである。

 刑の免除の判決は有罪判決の一種である(刑事訴訟法333条、334条参照)。構成要件に該当し、違法かつ有責であって、犯罪は成立するが、刑は科さないというものである。有罪である以上、逮捕および勾留により身体を拘束されても刑事補償を請求できない。

 任意的免除(例えば、刑法36条2項、37条1項但書、105条、113条但書、170条(171条)、173条、201条但書、211条2項但書)というのは、必要的免除(例えば、刑法80条、93条、244条1項(251条、255条)、257条1項)の対義語である。免除するかしないかの判断を裁判官に委ねるという意味である。

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