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医療死亡事故死因究明制度の経緯とそれに対する意見
牧野永城(日本医学協会会長)

2008/07/28

まきの えいき氏○1948年東北大医学部卒業。聖路加国際病院病院長、亀田総合病院メディカルディレクターなどを歴任。2002年から現職。

 この問題の発生の経緯は明らかではないが、1994年(平成6年)5月に発表された法医学会の「医師法第21条の異常死に関する解釈」に端を発するかに思われる。

●医師法第21条
 医師法第21条は「医師は死体または妊娠4カ月以上の死産児を検案して異常を認めたときは24時間以内に警察に届出なければならない。」というもので、その趣旨は「死体に犯罪との関連を疑わせるものがある場合」と解釈され、明治以来長年の間、問題を起こすことなく経緯してきたものである。

 医療の安全に関する社会の意識の変化に応じたものであったのか、法医学会では医師法第21条の「異常死」を「外傷の続発症による死亡」などの他に、「診療行為中の予期しない死亡」も含めて「過誤の有無にかかわらず」警察に届け出るべきであると、異常死の定義を拡大解釈して発表した。

 予期しない外傷の続発症とか、診療中の予期しない死亡などというと、たとえば骨折に由来する脂肪栓塞、手術中の心筋梗塞とか、不測の術後合併症による死亡とか、なども入るのか、現場の立場からは種々の疑問が出てくる。これらまで何故、警察に届けなければならないのか。

 しかし、当時はこの見解は医療界にも一般にも特に関心を持たれなかったし、法医学会にはこの法解釈を社会に強制する資格もなく、一学会の意見に過ぎなかった。

●刑事事件としての医療事故の増加
 横浜市大病院の手術患者取り違え事件はその約5年後の1999年1月に起こり、社会の医療の安全に関する関心は飛躍的に増大し、リスク管理、安全管理の問題がわが国でも急浮上し、医療事故に関しても、警察に届け出る必要のあるもの無いものの線引きが論ぜられるようになって、日本法医学会の定義が取り沙汰されるようになった。

 同じ年の2月には都立広尾病院で整形外科の患者の術後に、看護婦が誤って、点滴にヘパリン生食の代わりにヒビテン消毒液を注入し、患者が死亡したという事件が起こった。死因は明瞭で、学術的論争になるような問題はなかったのだが、病院長が警察に届けなかったという理由で、医師法第21条が適用され、有罪判決を受けたのが問題になった。この種の21条適用は前例がなかったので注目され、21条の解釈、特に検案という言葉の意味などが論議されたのである。

●警察届け出に関する厚生労働省通達
 そして2000年5月の国立大学付属病院長会議において、医療事故が原因で死亡した場合は勿論、その判断に迷うような場合でも、速やかに警察に届けるのが望ましいという見解が発表された。

 しかし、現実にこの問題に火をつけたのは、これを追いかけるようにその3ヵ月後の8月22日に、厚生労働省(以下厚労省)が、委員会が纏めたリスク管理マニュアル作成指針を発表し、事故発生時の対応として、「医療過誤によって死亡または傷害が発生した場合、又はその疑いがある場合には、施設長は速やかに所轄警察署に届け出よ。」という通達を出したことによる。この通達の対象は国立病院に限定されていた。

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