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医療訴訟の現状と、医師賠償責任保険の課題・注意点について
高月清司(IMK高月(株)代表取締役・医療経営コンサルタント)

2008/07/17

 実際に働いている医師の実に2人に1人が、1年間に何らかの医療ミスを経験しているといわれる現代。私共が実際に携わった医療訴訟現場の傾向を探りながら、医師賠償責任保険の課題と加入後の注意点についてお話ししたいと思います。

【1】医療訴訟の現状(3つの傾向)
1)訴訟(賠償)金額の高額化
 訴訟金額については単純な方程式(所得)×(働ける年数)+(慰謝料等)で計算されますので、所得も平均寿命も増えた現代では訴訟金額も増えるのは当然といえば当然です。

 さらに、最近の訴訟で特徴的なのは、請求金額に近い金額で判決が出るケースが増えています。判決は世論に流されますので、患者=弱者救済の流れから、リッチ層と思われている医師にとって逆風は当分続くかもしれません。

2)刑事告訴の増加
 いうまでもなく医師法第21条異状死の届け出義務)の適用が背景にあります。医療ミスはあくまで「民事事件(損害賠償事案)」ですが、この法律の適用によって同時に「刑事事件」としても扱われ、さらに悪質と判断されると免許はく奪・停止といった「行政処分」という3つ目のペナルティーか科せられます。

 衝撃的だった大野病院事件のように重罪を問われるケース(結果は起訴後保釈、現在係争中)でなくても、つまり一般的な事案でも、刑事事件は増えています。カルテの改ざんに代表される証拠隠滅や公・私文書偽造はいまだに後を絶ちません。同時に、日頃からカルテのつけ方に工夫をしておくことは、医師としてのご自身を守ることにつながると感じます。

3)研修医(または勤務医師個人)が訴えられる
 以前レジデントと呼ばれていた時代は文字通り「住み込み」の身分で、頂く報酬も現在とはケタが1つくらい低いものでしたが、代わりにミスに対する責任もありませんでした。しかし、04年度から始まった新研修医制度により、職場選択の自由や身分・報酬が確立されたのに併せて、職務への責任も伴うようになったといえます。

 一般の勤務医でも責任が課せられるケースが増えています。以前は(といってもここ10年程度前まで)、訴状の殆どは「被告:○○病院」とだけなっていたものが、最近では「被告:医師△△」と病院と連名で名指しされるようになっていて、弁護士数が増えるにつれ、こうした傾向はますます強まると予想しています。

 新種クレーマー(モンスタークレーマーや、クレームペイシャントなど)の出現についても触れておきます。まだ正確な分析がなされていないので、新種がどういう層に属するのか定かではありませんが、見たところ「ごく普通の人」が突然クレーマーに変身している感じがします。

 「後から来た人が先に呼ばれた」から始まり、「言葉使いが気にくわない」「(脱いだ)靴がなくなったから買ってくれ」に至るまで、全ての責任を他人になすりつける自己中心社会を反映しているようで暗い気分にさせられます。

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