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医療安全調査委員会設置法案大綱案所感
中澤堅次(NPO法人医療制度研究会理事長・済生会宇都宮病院院長)

2008/07/04

<地方委員会の立ち入り調査について>
 事故が起きたとき、当事者は障害の回避に必死で、取り調べなどときれいごとを言っている場合ではない。立ち入り調査において、警察手帳のような金ぴかの証明書を提示して、罰則を意識させるやり方は、麻薬Gメンや、国税庁の脱税捜査と同じ取り扱いである。

 事故に関連したという理由だけで大きな網をかけ、強制捜査により、その中から犯罪を確定し選び出すという方法は近年あまり聞いたことが無い。応じる義務があるのか、憲法が保障する人権に照らした説明が必要である。

 救急で運ばれる人は生命の危機に陥っている。生命の危機に介入することが医師の使命で、力及ばなければミスが無くても死亡することはよくある。死亡した場合に犯罪を疑う大綱の仕組みは、救急で働くものの意欲を下げる。通常の業務を遂行する中で犯罪者とみなされ、自らの嫌疑を晴らさなければ生きてゆけない。これが現場の医師に対して国が報いるやり方なのかと思う。

<事故調査委員会に同業者が入っても医師の自浄作用を高めることにならない>
 事故調査委員会に医師がはいることは、疑いを抱く家族には同業のかばい合いとうつる。医師同志が糾弾しあわなければ納得してもらえない構造である。

 医療事故防止に最も重要なのは、当事者の苦い経験が活かされることだ。当事者が自らが行なった診療を厳しく判断し、真相を究め、対策を講じて家族に説明し、勇気を持って同業に公表することが自律である。

 理由なき刑罰を受ける可能性が少しでもあれば、自律反省はしないほうが無難だと感じる。業務上過失を犯罪と定義する刑法は自浄作用に大きな障害になる。

 プロの団体が行なうべきことは、信頼回復のため難しい状況にある当事者を裁くことではなく、真相究明を側面から支え彼らの経験を集団の経験として共有し、再発防止に役立てることである。

 もともと人を害する意志なく救命のために関わった医療者を、起きた結果により刑事罰につなぐデザインは、家族にもまた当事者にも資するものは何もない。

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