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「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する意見
井上清成(弁護士)

2008/07/04

いのうえ きよなり氏○1981年東大法学部卒業。86年に弁護士登録、89年に井上法律事務所を開設。日本医事新報に「転ばぬ先のツエ知って得する!法律用語の基礎知識」、MMJに「医療の法律処方箋」を連載中。著書に『病院法務セミナー・よくわかる医療訴訟』(毎日コミュニケーションズ)など。

1 第3次試案や第2次試案と同一
 第3次試案と第2次試案は、表現こそ変化しているが、その内容において同一である。既にそれぞれの試案に対する意見として提出しているとおり、賛同しえない。この大綱案も第3次試案の法案化に過ぎず、法技術的にいくつかの修正を加えただけのものである。よって、この大綱案に対しても、賛同しえない。

2 大綱案の法技術的な難点
 民主党が公表した患者支援法案と比較検討すると、この大綱案には次のとおりの法技術的な難点が存すると思う。

 1)医師法21条の拡大強化
 2)医師の黙秘権の剥奪
 3)行政処分権限の拡大強化
 4)現行の業務上過失致死罪の追認
 5)医療の行為規範化

3 医師法21条の拡大強化
(1)コロンブスの卵
 民主党案によれば、医師法21条全部を削除することとなっている。これは「コロンブスの卵」であろう。今までは、医師法21条自体は存続することを大前提として、いかにして医療事故死を除外するかばかりに腐心していた。

 しかし、そもそも、殺人による死亡など一般の異状死に医師が接した場合に、その警察への届出を刑罰をもって強制することには、現代において何ら合理性がない。つまり、応招義務(医師法19条)などと同じく、医師の倫理に任せれば十分であり、刑罰によって担保する医師法21条自体が廃止されるべきであろう。

(2)大綱案の逆行性
 これに反し、大綱案はむしろ実質的に医師法21条を拡大強化してしまった。医師法21条の脅威の除去という当初の目標に逆行してしまっている。

(3)「届出をしない」場合にどうなるのか?
 医師法21条最大の問題点は、「届出をしない」と医師法21条違反で逮捕されたり処罰されたりすることであった。担当医が合併症などで問題はないと考え「届出をしなかったらどうなるのか?」こそが議論されるべき設定状況である。

 大綱案(第33)によれば、検案医が病院管理者への医療事故死の報告をしなかったとすると、まず、医師法21条本文により、従前と同じく処罰されてしまう。そして、それのみにとどまらない。大臣より届出命令が下され、体制整備命令も下される(第32(5)1)。届出命令および体制整備命令に従わないと、やはり刑罰により処罰されてしまう。(第32(9)1)。報告義務違反の刑罰もある(第32(9)2)。

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