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思いを綴った2冊の著書
今、医療者は何を考えどうするべきか
小鷹昌明(獨協医科大学神経内科)

2008/06/10

おだか まさあき氏○1993年獨協医大医学部卒業。現在、獨協医科大学病院神経内科講師ならびに医局長。専門は免疫性末梢神経疾患の病態および治療。

 「おたくの科の先生、こんなこと言っていましたよ!態度も良くないし、あれでは患者さんに失礼ですよ」「患者の入院と言われましても今は満床ですから、入院の必要な患者がいるなら誰か退院させるしかありません」と看護師からのクレームを聞かされる。

 上級医からは、「あの医師はいい加減なところがあるから、もう少しきちんとさせないとダメだぞ」「言うことを聞かないのは指導が甘いのではないか」などと小言を言われる。

 さらに、下級医からも、「患者の入退院がスムーズにいかないのは、病棟医長の対応が悪いからじゃないですか?」「入院させなければならない患者を、部屋がないからといって外来で待たせちゃ仕事にならないですね」などとも言われる。

 最後のとどめとして、患者からは、「私はあと1週間くらいしか入院して居られないのでしょうか?」「先生や看護師さんはナースステーションで書き物ばかりしていて、私たちのところへはあまり来てくれませんね」と一言漏らされる。

 日頃の看護師の苦労には感謝していますし、気も使っています。患者を丁寧に看護し、指導もしていただき医師を代表してお礼を申し上げます。下級医にも丁寧にお願いしています。私にとって、「忙しいところ申し訳ないが」が口癖です。

 上級医には取り敢えず良い返事をして、後でゆっくり解決方法を模索しています。患者のクレームには誠実に対応するよう心がけています。私が3年間務め上げた病棟医長の実態である。

 医療崩壊が深刻化するなかで、大学病院勤務医師のできることには限界があるということを嫌でも思い知らされた。日本は世界第2位の経済大国、平和を愛する国民がいて、自由が保証され、国民皆保険制度があり、年金、介護保険もそれ程ひどいというものではない。世界一の長寿国にもなった。文句を言えばきりはないが、一国の国民が飢えずに暮らしていける国は日本を含め世界に十数ヵ国しかない。私は、長くそう思ってきたし、そのことに疑問はなかった。

 それなのに、何故、世間は医療に満足していないのか。何故、毎日のように医療崩壊が報道されているのか。医療現場の何がそんなに問題なのか。大学病院に勤める平凡でどこにでもいるような医師が、病棟医長と医局長を経験して、医療現場の矛盾に気付いた。

 どうしようもない閉塞感を何とかしようと思い、自費出版を覚悟で『医者になって十年目で思うこと:ある大学病院の医療現場から』と、『医者の三十代:後悔しない生き方とは』 (近代文芸社) というエッセイを続けて執筆した。

 私は大学病院の医療現場を見続けて実感したことを訴えずにはいられなかった。自己満足であることは否定しないが、現代医療の何かが自分を突き動かしている。本書では、そんな大学病院勤務医師の素直な疑問に対する著者の見解を綴っている。

 医療の崩壊は、患者や医療者はもちろん行政など関係するすべての人々を不幸にしつつ静かに進行してきた。医療の現況に関する詳述は本書に譲るが、最近になって、ようやくマスメディアで取り上げられるようになり、国会でも議論されるようになった。医療者自らが執筆した書籍やブログも目立ち始めた。

 そのどれもが現場における危機的な現況を述べている。無力感や閉塞感を漂わせる内容が多く、現代の医療は何かがおかしい、何かが病んでいると感じさせる。ここへ来て、医療がとんでもない方向へ向かっているということに気が付いた。

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