日経メディカルのロゴ画像

医療現場に情報公開を
ボルテゾミブによる肺障害事件を振り返る
成松宏人(日本対がん協会がん対策のための戦略研究推進室室長補佐)

2008/06/05

なりまつ ひろと氏○1999年名大医学部医学科卒業。2008年名大大学院医学系研究科分子細胞内科学(血液・腫瘍内科学)修了。2008年4月より現職。

●未承認薬の個人輸入が増えている

 近年の情報化社会の発展は、様々な分野でグローバル化をもたらしました。医療においても例外ではなく、患者および医療者は容易に海外の情報を手に入れることができるようになっています。

 特に、日本で未承認であっても近年欧米で承認された抗がん剤のニーズは、年々高まっています。これらの薬剤は医師が薬監証明を厚生労働省に提出し、代行業者などを通じて個人輸入を行い、患者に対して処方することが合法的に可能です(1)。

 3月26日、厚生労働省は混合診療について保険外併用療法における「高度医療評価制度」を設け、薬事法で承認されていない医薬品や医療機器を使った場合でも、一定のルールに基づけば保険診療との併用を認める方針を示しました。

 従来、未承認薬使用時は保険医療との併用ができませんでしたが、この制度の創設により、未承認薬を用いて混合診療を行った場合の患者の経済的負担が軽減されることが期待されます。

 一方で、高度医療評価制度では厳密なデータ管理体制が求められ、実施施設も高度医療施設に事実上限定されることが予想されます。この新しい制度が患者のニーズや医療現場の実情に即したものか今後議論する必要があります。

●ボルテゾミブによる肺障害事件

 筆者の専門とする血液・腫瘍内科の分野では最近、未承認薬の副作用が大きな問題となりました。この経験は今後未承認薬の問題を考えるにあたり大きな教訓を残しました。筆者も一員である東京都老人医療センターの宮腰重三郎医師らの研究グループにより、最近のLancet Oncology誌にこの経緯が報告されましたので紹介させていただきたいと思います(2)。

 ボルテゾミブ(商品名:ベルケイドR)は多発性骨髄腫に対する新規薬剤です。骨髄腫細胞の増殖に関わるプロテアゾームを阻害することにより抗腫瘍効果を発揮します。海外での臨床試験により、他の薬剤に抵抗性の多発性骨髄腫患者にボルテゾミブを投与したところ効果が認められたことが報告され(3)、2003年5月に米国食品医薬品局に承認されました。

 昨年のアメリカ血液学会では、初回治療においてもボルテゾミブを使用した治療は従来の治療と比べて有効であるという国際大規模比較試験の結果が報告され、初回治療でもその効果が期待されています(4)。また米国では悪性リンパ腫の一部に適応承認されており、多発性骨髄腫以外の悪性腫瘍の治療としても期待されています。

 日本でも2004年5月より日本における発売元のヤンセンファーマ株式会社によって臨床試験が開始されました。このように有望な新規薬剤であるにもかかわらず2006年10月に日本で承認されるまでは、臨床試験にエントリーできない多発性骨髄腫患者にとっては、個人輸入がボルテゾミブの治療を受ける唯一の選択でした。

 そのため、臨床試験の進行と同時に国内でも投与を希望し、かつ医師が投与が適切だと判断した患者には臨床試験外で個人輸入されたボルテゾミブの投与が行われました。その数は2006年1月までに少なくとも52例にのぼりました(5)。

 ヤンセンファーマによる治験は、重篤な間質性肺炎を発症した患者が出たため、一旦中断されました。この重大な副作用は今までの欧米での臨床試験では報告されておらず、日本人特有の副作用の可能性も考えられました。

この記事を読んでいる人におすすめ