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「第三次試案」に対する意見について
中澤堅次(全国済生会病院長会医療政策委員会委員長)

2008/05/23

なかざわ けんじ氏○1967年慶應大医学部卒業。2004年より済生会宇都宮病院院長兼看護専門学校長。現在、慶應大医学部内科学教室客員教授、NPO法人医療制度研究会理事長。

 第三次試案が公表されました。全国済生会病院長会医療政策委員会で検討を加え、以下の提案をまとめました。

■論旨

 第三次試案は、再発防止と処分という両立しえない二つの目的を持っており、処分が再発防止に支障をきたす構造上の矛盾は解決されていません。その矛盾から、当事者である医師の人権問題、事故の再発防止、補償問題という最も重要な問題解決の基盤になる真相究明が不可能になるという致命的な欠陥を持っています。

 診療関連死が起きるたびに医療者は地方委員会の調査を受けなければならず、病院が主体で行なう再発防止の安全対策にも支障をきたすほか、いずれも医療の本質にかかわる重大な弊害といえます。

 過剰労働に悩む現場の医師を第三者や官庁が監視し、ことあるごとに容疑者として弁明を求めるやり方は、生命の危機に挑む医師のモティベーションをそぎ、医療崩壊を加速する恐れがあり、当事者の人権に配慮すると、再発防止のために重要な当事者の情報が明らかになりません。

 また、信頼関係の危機にある当事者の間に第三者調査が割って入ることになり、事故に責任がある病院は家族への接触もできず信頼回復に必要な努力は出来ません。

 いわれのない刑罰から医療者の人権を守り、再発防止と信頼回復を目的とした、矛盾のないシステムをつくる必要があり、病院医師の戦線離脱により生じた医療崩壊を食い止めるためにも、拙速な法案化は避け、引き続き議論をかさねるべきと思います。

 診療関連死は医療の専門性に関わる問題が大部分で、医療者自身が透明性をもって究明し、責任範囲を決めて家族に提示し、責任があれば補償を行い、再発予防につなげることが全ての基本です。その際手続きの妨げとなるのは業務上の過失致死罪の適用で、ここに第三次試案の問題が集約されます。

 真相究明が目的であれば、診療関連死を業務上過失致死罪と切り離すか、そのもの自体を廃止するしか選択肢はありません。国民の理解を得るためには別の方法で倫理性と透明性を確保することが必要で、同業者の監視を含めた自浄作用はこの目的に発揮されるべきと思います。

 全国済生会病院長会医療政策委員会は下記のように提言いたします。

■ 提言
(1)診療関連死の取り扱いについて、多くの問題を含む第三次試案の拙速な法案化を避け、信頼回復と再発予防を目的とし、矛盾のないシステムを作る努力を引き続き行うこと。
(2)故意の犯罪をのぞき、「重大な過失」を含めて医療事故の刑事責任は問わないこと。
(3)医師法第21条の届け出範囲から医療事故を除くこと。
(4)医療事故に起因する損害の補償は当事者同士の交渉とし、病院は公平性、透明性をもって院内調査を行い、結果を家族に公開し問題があれば補償に責任を持ち、再発防止のための改善を行い、医療安全に関する情報を集積する第三者機関に報告を義務づけること。
(5)院内調査の透明性を確保するために医療同業者の監視機関を設立し、院内調査の透明性と客観性を監視すること。
(6)以上の手続きで両者に了解が得られない場合は民事訴訟となるが、裁判外調停を利用して迅速性を高め、専門性の高い問題の鑑定を行う組織を医療団体が準備し、その運用を政府が支援すること。

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