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厚労省第三次試案の法的弱点(その3)
医療安全調査委員会は警察の捜査開始と検察の刑事処分を制御できるのか
井上清成(弁護士)

2008/05/12

いのうえ きよなり氏○1981年東大法学部卒業。86年に弁護士登録、89年に井上法律事務所を開設。日本医事新報に「転ばぬ先のツエ知って得する!法律用語の基礎知識」、MMJに「医療の法律処方箋」を連載中。著書に『病院法務セミナー・よくわかる医療訴訟』(毎日コミュニケーションズ)など。

【1】 組織法・手続法・実体法の欠如

 医療安全調査委員会が「重大な過失のある事例その他悪質な事例」を法的にコントロールするためには、組織法・手続法・実体法の整備がなされねばならない。どれか1つが完備されるか、それとも、それぞれ不備ながらも合わせ技でコントロールするか、である。

 残念ながら、厚労省第三次試案の内容では、どれ1つとして完備したものはない。かと言って、合わせ技でコントロールできるほどのものもないと思う。組織法は欠如しているに等しいし、手続法・実体法の整備は全くなされなかった。つまり、法的にはコントロールできないと評せざるを得ない。

 「運用で皆が力を合わせればよいので、とりあえず試行してみてはどうか!」という前向きな意見も有力である。しかし、試行の失敗の確率や、何よりも、失敗した後の原状回復不能なほどの医療現場の荒廃を想像する時、そのリスクは大き過ぎると感ぜざるを得ない。

 いずれにしても、それは政策的な決断に委ねられる。とりあえず以下では、3つの法の欠如について検討したい。

【2】 組織法の欠如

(1)医療者の代表

 医療安全調査委員会は、医療安全と責任追及の両面で、医療者の生殺与奪の権を握るほどになりかねない機関である。しかし、それほどの権限を有する機関にしては、医療者の代表を選出する法的正当性の契機(法的正当化に重要な要素)が希薄に思う。医療者による選挙か、せめて医療界の諸団体の協議による選出が必要である。

 現在の構想では、大臣の諮問機関レベルに過ぎず、妥当ではない。

(2)法律家等の参画

 中央委員会・地方委員会・調査チームのいずれにも、法律家やその他の有識者が委員などの正式メンバーとして参画している。しかし、法的評価を行うものではなく医学的判断を行うのであるから、参画する必要はない。

 なお、透明性の確保に必要だというのであれば、せいぜいオブザーバーとしての参加で十分であろう。

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