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「第三次試案」に対する全国医学部長病院長会議・大学病院の医療事故対策に関する委員会の見解
世界基準で事故調査機関を作らねば、医療は崩壊する
嘉山孝正(全国医学部長病院長会議・大学病院の医療事故対策に関する委員会 委員長)

2008/05/07

「はじめに」

 全国医学部長病院長会議では、過日「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案」ー第二次試案ーに対する見解を、報告致しました。今回、名称も変更した第三次試案が公表されましたので、全国医学部長病院長会議、『大学病院の医療事故対策に関する委員会』で第三次試案を検討いたしました。その見解を公表し、厚生労働省と国民の皆様に問題点を提示致します。

 『大学病院の医療事故対策に関する委員会』(以下;委員会)では、本法案が施行された場合、法の精神に則って医療は変化していきますので、医療および患者さんへどのような影響が出るかを中心に議論致しました。すなわち、ある面の理念(一方的ではあれ、多くの場合それは正しいのです)だけで法案を作成した場合、現場と乖離したが為に、想像もしない悪影響が出て現場が混乱し、その社会が崩壊や衰退に至る例は史上多々あります。賛成か反対かは国会が決定する事なので、委員会としては、第三次試案の問題点をあげる事と致しました。最も大切な事は、現場から乖離しない健全な社会ができる事です。この場合における社会とは当然医療になります。なぜならば、医療の現場が健全でなければ、患者さんが受ける損失は膨大なものになるからです。


1) 総論

 基本的に委員会では、事故調査機関の創設自体は行うべきだと考えます。また、助けようとしている最中に患者さんが死亡した場合、ご家族がその原因を知りたいと思われる事も充分に理解しており、当然の事だと考えております。

 日本のみならず、米国を含む世界の医療界は、(膨大な量の医療行為の中ではごく少数であった隠蔽も含めて)患者さんの死亡の原因をご家族に丁寧に開示してこなかった事は確かです。医療費が日本のGDP比2倍で、進化していると思われている米国でも、1995年までは医療事故を重要視していませんでした。米国は1995年以降、充分な資金を投入して、医療問題に関する機構改革を行っております。

 日本では横浜市立大学医学部附属病院での患者さん取り違い事件以来,すなわち1999年以降、全国国立大学医学部附属病院が真っ先にこの問題に取り組み、種々の制度整備を,文部科学省および厚生労働省と共に行って参りました。勿論全ての大学附属病院が同じように意識改革ができたわけではありません。しかし、この約10年で、医療事故に対する大学附属病院の意識および制度が大きく変わった事は事実です。なぜならば、最もリスクの高い医療を行っているのが、まさに大学附属病院だからです。その結果、ある大学では、故意ではないにしても病院長へ報告義務を行わなかった為に、医療事故隠蔽に相当するとして、教授に懲戒処分まで出た例もあります。

 さて、委員会としての医療に伴う種々の問題を以下のごとく考えます。

 医療は誠意を持って行う行為ですが、故意の隠蔽やカルテ改ざんは犯罪ですから、医療行為とは分けて考えております。殺そうとする行為はもちろん医療行為ではなく、これも犯罪です。そのような犯罪以外の医療行為での過誤や重大な過失を定義することは、病気という、本来は悪化する自然現象を相手にし、更に日進月歩しているこの分野では、なかなか困難な事物である事も、国民の皆様にはご理解願いたいと思います。やはり自然を相手にしている気象予報が完全でない事を、想像されれば容易です。

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