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現場の医師のパブリックコメントが状況を動かす
小松秀樹(虎の門病院泌尿器科)

2008/04/28

 医療事故調医療安全調査委員会)の第三次試案についての議論が続いている。

 医療問題解決のための施策は、現実と乖離した規範の実現を目的とすべきではない。人間の特性と現実を踏まえて、実行可能性と結果の有用性を基準に制度設計を行わなければならない。

 「正義」の実現が医療を壊滅させる可能性だってある。権力機構は権限と組織拡大の本能を有する。チェックがないと必ず暴走し、腐敗する。

【無理な規範は何をもたらすか?】

 2007年6月施行された新建築基準法は、耐震偽装という悪の撲滅を目的とした。厳格な規則の体系で現場を縛った。その結果、住宅着工は激減し、多くの優良な会社が倒産した。そればかりか、建築のコストが上昇した。世界基準からかけ離れた建築基準は風力発電まで撲滅してしまった。

 世界の医療機器マーケットで日本のシェアは低下し続けている。日本では、治験段階から完全な本生産設備の整備を求められる。厚労省が、回収できるかどうかわからない投資を強いるため、実質的に、国内での開発が不可能になった。

 医療機器開発に対する厚労省の立場を、ある課長補佐が「私どもは、国民の安全のための審査をするところでして産業振興・育成は経産省の仕事と思っています」と表現した。自分たちの責任を問われないようにするために、医療機器を開発させないと言っているように聞こえる。

 厚労省の官僚は、彼らを攻撃するメディアの、リスクがあってはならないとする論理に同調した。国外にシェアを持つ例外的な会社は、開発拠点を国外に移しているが、国内販路しかもたない企業が生き残るのは難しいと予想されている。

 化学技術戦略推進機構の「医療機器開発の促進/活性化に関する調査報告書」では、企業の医療機器開発への参入意欲が低いこと、その背景として「行政の許可承認を事業の阻害要因と強く感じている」ことが明らかにされている。日本の医療機器メーカーは厚労省の責任回避体質のために、壊滅の危機にある。

【厚労省の言葉は誠実か?】

 これまで医療事故調をめぐる議論に関わってきて、厚労省の言葉が誠実なものかどうか疑問を感ずるようになった。意図的に虚偽の発言をしている可能性すらあるのではないかと疑うようになった。

 具体的には、医療事故調がどのような役割を担うのかについてである。第三次試案は、文言上、医療の安全向上を目的としているが、どうみても、実質的には責任追及になっている。医療関連死究明の在り方の検討会が始まった当初、医療事故調の目的が、過去の責任追及なのか、それとも、未来の医療の安全向上なのかという質問が樋口委員から提起された。

 しかし、検討会では本格的な議論はなされなかった。私自身は、後述するように、医療を安全にするための報告制度はすでに実施されていると認識している。日本の医療が崩壊しかねない状況から、軋轢を小さくするための調査が必要だと思っている。

 私は、2007年8月14日の讀賣新聞紙上で、検討会座長の前田雅英氏と議論した。前田氏の主張に付けられた見出しは「法的責任追及に活用」であり、私の主張の見出しは「紛争解決で医療を守る」だった。一般的傾向として、日本の省庁の審議会の委員、特に座長は、意見集約の責任を担うという意識が強く、事務方の意向に沿って発言する。「法的責任追及に活用」という主張は、厚労省の事務方との摺り合わせの結果とみるのが普通だろう。

 世界で医療事故の報告制度について、どのように考えられているのか。1999年のアメリカ医学研究所の「人は誰でも間違える」の出版は、医療安全におけるパラダイムシフトをもたらした。医療事故調をめぐる意見は、これ受け入れるかどうかで、大きく分かれる。樋口委員の発言は下記のどちらの立場に立つのかという質問でもある。

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