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第三次試案の感想
中澤堅次(医療制度研究会)

2008/04/14

 4月3日に厚労省による第三次試案が公表されました。第二次試案で問題とされたことは文章で修正され、ある程度は納得がゆくように変わっていますが、かえって矛盾が明らかになった部分もあり、とても最終案などとはいえない内容です。

 大きく変わった点は、届け出範囲がかなり絞られ、医療機関の管理者の判断が尊重されること、遺族の代表がはいることになっていた調査機関は中央の「医療安全調査委員会」と「地方委員会」に別れ、地方委員会は医師だけで構成され、中央には医師の団体の代表と法曹界と家族の代表が入る形になり、刑事通告の役割は地方委員会に置かれています。当事者の人権に配慮して調査委員会の質問は強制されないという文言も加えられました。そのほか個人のエラーだけでなくシステムエラーも行政指導の対象になることが書かれています。

1. 中央安全委員会では勤務医の存在は否定されている

 大きなポイントは中央の医療安全委員会の役割になりますが、その割にはしっかり定義されていない気がします。この委員会がおそらく司法上の医療水準を決めることになり、行政処分が事実上の水準の強制権をもつことになりそうです。すくなくとも民事裁判の水準を形成することになるでしょう。

 14ページに図示された中央安全委員会の構成を良く見ると、この論争の縮図を見ているような気がします。推進する人たちは審査する側に回り、事故の当事者である医師、多くは勤務医ですが、彼らの位置は書かれていません。よく考えるとその位置は地方委員会のデスクに広げられた紙の中ということになりそうです。

 構成員である学会代表は医療の水準を高める立場で、そのまま審査する立場になれば実際とは異なる厳しい水準で審査が行われるリスクがあります。病院会は勤務医の使用側で、医師会は死に関係する治療はしない、有識者は失われた命を第一に考えます。死につながる診療を業務とし、ミスが死につながる危険な現場にいる医師と看護師の立場は、このシステムでは罪を犯す罪人で、再発防止の検討からは遠い存在になっています。

2. 第二次試案における主な三つの問題点

 私たちは、第二次試案の主な問題点として三つ項目を挙げました。そのひとつは司法、行政手続きにおける“被疑者”である医療者の人権、第二は、両立しない処分と安全対策を一つの委員会が行なうこと、第三は、委員会の介入が家族と医療側との信頼関係を壊すことでした。それらをひとつひとつ検証してみます。

1) 当事者の黙秘権で明らかになった責任追及と安全活動との矛盾

 第三次試案では、事故の当事者は調査委員会の質問に答えることを強制されないとかかれており、当事者の黙秘権を認めています。これは刑事訴追までつながる委員会の性格上正しい判断だと思いますが、当事者が真相を語らないことで事故の真相究明ができないという問題が新たに発生します。

 有効な対策はできず、行政指導の根拠が失われ、遺族が納得するような真相究明ができないことになります。処分と再発防止対策は両立しないという医療安全上の常識に、本案のデザインが根の部分から矛盾していることがかえって明らかになってしまいました。
 
 個別性の高い医療事故では真因は当時者の証言から探るしか方法はなく、真相が明らかにならなければ、病院は責任の範囲を決められず、家族への対応が遅れるほか、当事者の情報なしの検討では、適切な改善策は立たないというジレンマに臨床側は苦しむことになります。家族の納得を得るためには別の仕組みを準備することが条件ですが、故意で無い限り救命の意図の中で起きる医療事故の刑事免責は臨床側には譲れない一線です。

2) 委員会のシステムエラーの分析は政府にまで及ぶのか?

 第三次試案では個人の責任よりはシステムの欠陥に対する行政指導を重視するとしています。原子炉の安全管理の専門家で、現自治医科大学医療安全学教授河野龍太郎氏のお話では、 事故の再発防止は高次のシステムエラーを考えることが有効、中央の事故調査委員会がシステムエラーを検討するのであれば積極的に賛成するといわれます。

 ご意見を参考に例を取れば、当直明けの医師が事故を起こしたら、医師の勤務体制がシステムエラーになることもあり、医師の労働時間を労基法どおりにするように改善が要求できる。背後要因として医療制度の問題が上がり、国が改善の責任を負うというようになる。間違えやすい薬を認可しないようにすることも出来る。システムエラーを委員会が問題とし、科学的に検証し、政府もそれに責任を負えば、それは本当の問題解決になるということになります。

 また中央委員会の構成は、安全学の研修を受け、実際の経験を持つ専門家の委員が入ることが必要と言われますが、このように本質的意味でシステムエラーが検討され、政策や制度にまで範囲が及ぶのであれば画期的で私たちも歓迎したいと思います。

 また、本案で新しく付け加えられた“医療機能評価機構に報告された事例を委員会に提供する”という仕組みにも触れ、再発防止のためのシステムエラーの改善が目的であれば問題ないが、個人や責任者の処分が目的であれば、インシデント報告制度は完全に死んでしまい、安全文化の最も重要な要素である「情報に基づく文化、報告し続ける文化」に壊滅的な打撃を与えるといわれます。ここでも再発防止と処分との矛盾がはっきりしてきますが、二者両立は考えられないので、第三者機関の構成はどちらでいくのか最初から決めてかからなければならないと思います。

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