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厚労省第二次試案に異議あり
小松秀樹(虎の門病院泌尿器科部長)

2008/03/25

 昨年10月に厚労省が発表した「診療行為に関連した死亡の死因究明等に在り方に関する試案 第二次試案」に関して、私は強い疑念を抱き、さまざまな場で発言してきた。現場の医師たちの中にもとまどっている人は多い。ここで、これまでの経緯を概括的に述べることで、私なりの意見をまとめておきたい。

 日本の医療機関は相矛盾する二つの強い圧力にさらされている。医療費抑制と安全要求である。医師は、医療費抑制による労働環境の悪化と患者との軋轢のために、士気を失い病院から離れはじめた。医療が産科、救急など脆弱な部分から崩壊し始めている。士気喪失の象徴となったのが、刑事司法の介入である。

●刑法211条 業務上過失致死傷罪
 介入の主たる根拠は刑法211条業務上過失致死傷罪である。1999年の横浜市立大学病院での手術患者取り違え事故を契機に、医療に刑事司法が介入することが多くなった。医療者の立場からみて医療行為を犯罪として処罰することには二つの問題がある。 

●単純過失は罪か
 2000 年3月、京大病院で人工呼吸器の加温加湿器に消毒用のエタノールが誤注入され、患者が死亡する事件があった。当事者の新人看護師は加湿器の水がなくなったら、調乳室にあるポリタンクの滅菌水を使用するよう上司からアドバイスを受けた。ところが調乳室にあったよく似たポリタンクにエタノールが入っていた。複数の看護師が加湿器にエタノールを補充した。タンクをベッドサイドに運んだ新人看護師が、業務上過失致死罪で有罪になった。

 この事故では明らかな誤りのために患者が死亡した。複数の看護師が誤りを犯したが、新人看護師のみが刑事罰を受けた。刑事司法では、死亡結果があって、注意義務(死亡結果を予見すべきで避けるべきだったこと)違反が存在することが法廷で認められると、刑罰を発生させることができる。

 一方、ヒューマンファクター工学の認識では、人間は、疲労や、環境の影響のために、簡単に間違える。そこで、システムを工夫して被害が生じないように努力する。ところが、日本では、医療にかけられる費用が抑制され、これを現場の苛酷な労働で補ってきたという現実がある。

 そもそも、現実に行われている全ての医療から、「この医療は業務上過失致死傷に相当する」として、ある特定の医療を切り取る「理念」と「方法」に問題がある。法律家は、法令と過去の業務上過失致死傷裁判の判決文で公表されているものしか研究しない。ところが、「非業務上過失致死傷医療」集合の中に、多数の過誤が含まれている。実際に、被害の生じなかった過誤が、1病院あたり、毎月50ないし70件、医療機能評価機構に報告されている。被害が生じたかどうかは、状況に依存しており、本人が悪質かどうかとは関連しない。また、罰を科すことで、人間が有している「誤りやすいという本性」を変えることはできない。さらに、処罰は証言を得にくくして、事故の原因調査を阻害する。

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