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NEJM誌から
癌化学療法に対する制吐治療のこれまで
5-HT3受容体・NK-1受容体拮抗薬の歴史と現状

 癌化学療法誘発性の悪心嘔吐(CINV)は、治療関連の副作用として広く見られるが、癌患者のQOLの低下を招き、深刻な場合には、化学療法の用量削減または中止を余儀なくする。近年、新たな制吐薬が開発され、それらを併用するレジメンも提示されて、症状の大きな緩和が可能になっている。米Indiana大学医学部のRudolph M. Navari氏らは、CINVに対する制吐療法の進歩と現状、現時点での課題などを概説するレビューをNEJM誌2016年4月7日号に報告した。

 1970年代には、化学療法終了後も悪心が続き、退院が遅れる患者が少なからずいた。1979年に行われた、癌患者を対象とする無作為化試験は、化学療法誘発性悪心嘔吐の発生率は約83%と報告している。その後20年間に新たな制吐薬が登場し、CINVの軽減に貢献している。ある観察研究は、催吐性が高度または中等度の化学療法薬を投与されている患者における急性の悪心の発生率は35%、急性嘔吐の発生率は13%と報告している。

 現在では、制吐治療のガイドラインを遵守すれば、CINVを抑制でき、患者は治療後すぐに通常の生活を送れるようになる。癌患者のQOLは改善し、化学療法の用量削減や中止を回避できるようになっている。こうした大きな進歩を広く知らしめたのは、2014年に米臨床腫瘍学会(ASCO)が行った世界的なオンライン調査だ。その中で制吐薬は、医師、患者、一般市民から、「腫瘍内科領域の過去50年間の進歩トップ5」の一つに選ばれた。

 このレビューでは、背景となる情報と、成人患者のCINV予防の領域で記憶に残る画期的な出来事について記述し、現在臨床診療で用いられている方法と課題を明らかにし、その解決法について論じている。

CIMVの基礎

 CINVは以下の5つに分類される。急性(化学療法開始から24時間以内に発生。ピークは一般に5~6時間後)、遅発性(24時間後から2~5日後までに発生)、突出性(制吐薬の予防的投与を適切に行っても発生)、予期性(先の治療サイクルにおいて悪心・嘔吐を経験した患者が次の化学療法を受ける前に感じる悪心や嘔吐)、難治性(次の治療サイクルで、予期性ではない悪心嘔吐が生じる)。

 過去30年間の研究の進歩によって、化学療法薬が悪心と嘔吐を引き起こすメカニズムの一部は明らかになった。現在では、CINVは末梢経路と中枢経路があることが知られている。末梢経路は、化学療法開始後24時間以内に活性化し、主に急性の嘔吐を誘発する。抗癌剤が消化管のクロム親和性細胞を刺激してセロトニンを放出させ、これが求心性の迷走神経にある5-HT3受容体を活性化させ、脳に刺激を伝達する。中枢経路は主に脳にあり、延髄の最後野が嘔吐中枢と考えられている。こちらは化学療法開始後24時間以上経ってから遅発性の嘔吐を誘発する。サブスタンスPが、中枢神経系のNK-1受容体を活性化させる主な神経伝達物質だ。

 CINVを予防するための薬の大半は、ドパミン受容体、5-HT3受容体、NK-1受容体などの拮抗薬だ。なお、5-HT3受容体とNK-1受容体の信号クロストークが起こることが示唆されているが、詳しいメカニズムは明らかになっていない。

 CINVはオペラント条件付けによって発生する場合もある。本来は無関係な刺激(ある種の臭い、クリニックに向かうエレベーター、食料品店で偶然に化学療法担当看護師と出会うなど)によって悪心嘔吐が発生するしくみは十分には分かっていない。

 個々の抗癌剤の催吐性の強さは、2004年に4段階に分類された。制吐薬を使用しない場合の嘔吐発生率が10%未満をレベル1、10%以上30%以下をレベル2、30%を超えて90%以下をレベル3、90%超をレベル4としている。この分類は、抗癌剤の併用療法には当てはめにくく、遅発性の悪心嘔吐を適切に評価していない可能性はあるが、制吐療法に関する意思決定に役立つ重要な進歩と見なされている。

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