救急部門を受診した、急性冠症候群(ACS)が疑われる患者に対して、最初の画像検査として冠動脈CT血管造影(CCTA)を行えば、低~中リスクの患者の安全な早期退院が可能になることが、米Pennsylvania大学のHarold I. Litt氏らが行った無作為化試験で明らかになった。論文は、NEJM誌電子版に2012年3月26日に掲載された。
救急部門を受診した、ACS疑いの患者の入院率は高い。だが、そうした患者では、入院後、その症状が心臓に由来するものではないことが明らかになることが多い。
CCTAは、非侵襲的で、かつ冠疾患の検出における陰性予測値(陰性的中率)がほぼ100%であることが知られているが、救急部門を受診した患者の退院の可否決定におけるその有用性は確立していなかった。
そこで著者らは、CCTAベースの退院可否判断の安全性と有効性を評価する多施設無作為化試験を実施した。米国内5施設で、09年7月7日から11年11月3日まで患者登録を行った。ACSを思わせる症状または徴候を示したが、来院時の心電図は急性の虚血を示さず、TIMI(Thrombolysis In Myocardial Infarction)リスクスコア(0~7の範囲で、高スコアほど有害心イベントリスクが高い)が0~2(低~中リスク)で、担当医が入院または検査の必要性があると判断した30歳以上の1231人を抽出。2対1の割合で、最初にCCTAを行う群(908人、平均年齢49歳)または従来通りの手順で検査を行う群(462人、50歳)に、無作為に割り付けた。
主要転帰評価指標は、CCTA検査の結果が「50%以上の狭窄なし」、すなわち陰性(=臨床的に意義のある冠疾患なし)と判定された患者の、救急部門受診から30日間の主要な心イベント(心臓死または心筋梗塞)に設定。イベント発生率の95%信頼区間の上限が1%未満なら、CCTA検査の結果に基づき退院しても安全であるとあらかじめ規定した。2次評価指標は、救急部門からの退院率、入院期間、リソース使用状況などとした。
CCTAに割り付けられた908人の患者のうち、実際にCCTAを受けたのは767人(84%)だった。このうち、冠動脈の狭窄度が最大でも50%未満(=陰性)だった患者は640人(83%)いた。残りの127人のうち124人が、CCTAに続いて負荷試験を受け、うち15人に可逆性虚血が見つかった。心臓カテーテル検査を受けたのはCCTA群全体の4%に相当する37人で、うち28人に50%以上の狭窄が見つかった。
従来の手順に割り付けられた462人の患者では、295人(64%)が何らかの検査を受けていた。多くが負荷試験とイメージングの両方(258人)を受けており、負荷試験だけを受けた患者も9人いた。負荷試験を受けた267人中、16人に可逆性虚血が見つかった。心臓カテーテル検査が行われた患者は18人で、このうち狭窄度が50%以上だったのは8人だった。CCTAを受けたのは26人で、うち4人に50%以上の狭窄が見つかった。
海外論文ピックアップ NEJM誌より
NEJM誌から
「ACS疑い例にまず冠動脈造影CT」で不要な入院が減少
従来の検査手順との比較で、30日間のイベント発生率に有意差なし
2012/04/09
大西 淳子=医学ジャーナリスト
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