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Lancet誌から
福島の原発事故、短期的・長期的な影響は?
福島県立医科大学の長谷川有史氏ら、事故による健康面・社会面への影響をLancet誌の特集号に報告

 2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原子力発電所(原発)の事故を受け、稼働を停止していた日本国内の原発が、2015年8月11日に再稼働した。原発事故が住民の健康に及ぼす多様な影響について理解しておくことは、医療従事者にとって重要となるだろう。Lancet誌2015年8月1日号の特集「From Hiroshima and Nagasaki to Fukushima」には、福島県立医科大学の長谷川有史氏らが、2011年の福島第一原子力発電所での事故の短期的、長期的な影響についてまとめた論文を寄稿した。

 論文の原題は「Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents, with an emphasis on Fukushima」、概要は、Lancet誌のWebサイトで閲覧できる。以下に、論文内容のポイントを記す。

世界の原発および原発事故の現況
 電力需要の増加に対応するために、現在、全世界で437の原発が稼働している。それらの約3分の1は、福島第一原発の周辺より人口密度が高い場所に存在している。

 これまでに、国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)のレベル5以上と判断された原発事故は5件発生している。1957年にソ連のウラル地方で発生したKyshtym事故(レベル6)、同年に英国で発生したWindscale原子炉火災事故(レベル5)、1979年の米スリーマイル島での事故(レベル5)、ソ連で1986年に発生したチェルノブイリ原発事故(レベル7)、そして2011年の福島原発の事故(レベル7)だ。これらの事故が個人と社会に及ぼした影響は様々だが、いずれも長期にわたって持続している。

福島における事故直後の状況
 福島では、事故直後から住民の健康被害を防ぐための活動が開始された。2011年3月11日から13日まで、原発から直径3km圏内、10km圏内、20km圏内の住民に緊急避難の指示が出された。3月15日までに、20km圏内の住民のほとんどが避難を完了した。

 1号機と3号機の水素爆発によって、作業員16人が外傷を負ったが、現地で治療を受けることは難しかった。地震によって地域の救急病院が閉鎖されたり、ほとんど機能していなかったからだ。

 日本では、1999年に発生した東海村JCO臨界事故をきっかけに、原発周辺の防災対策の一貫として被曝医療体制が作られたが、これを担う医療機関の半数以上は原発から直径30km以内に存在する。従ってそれらの施設は、事故直後に避難地域に指定されて、機能を失う可能性がある。

原発作業員の被曝レベル
 東京電力の2013年の報告によると、福島の事故では、原発で作業に当たった東京電力社員と請負作業員で100mSv以上の被曝をしたのは全体の1%未満であり、平均被曝線量は11.9mSvだった。緊急の作業に当たった6人は被曝線量が250mSvを超えたが、国際放射線防護委員会(ICRP)が重篤な確定的影響を回避し得るとする実効線量の限界(1000mSv)を超えた作業員はいなかった。自衛隊員と消防隊員の最大被曝線量は81.2mSvだった。

 急性放射線症候群のような急性反応は報告されなかった。だが、100mSvを超える被曝をした作業員については、小さいが癌リスクが上昇する恐れがある。

 作業員に発生した健康上の問題のほとんどは被曝とは無関係だった。2014年9月までに754人が治療を受け、5人が死亡(3人が急性心筋梗塞と心停止、1人は大動脈解離、1人は外傷性窒息による死亡)していた。

福島県民の被曝レベル
 2014年8月の報告によると、調査対象者42万1394人の94%において、2011年3月11日から2011年7月11日までの外部被曝実効線量は2mSvを越えておらず、平均は0.8mSvだった。外部被曝の最大値は25mSvで、ほとんどの被曝は事故直後に発生していた。

 放射性ヨウ素の曝露については、チェルノブイリ事故の場合とは異なり、主に吸入により体内に取り込んだと考えられている。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータに基づき推定すると、大気中の放射性ヨウ素レベルが最も高かった地域に居住する生後12カ月の乳児の甲状腺被曝線量は約80mGyと推算された。実際に内部被曝の直接計測を受けた小児はわずかしかおらず、甲状腺モニタリングの対象になった30km圏内からの避難者62人のうち、成人の甲状腺等価線量の最大値は33mSv(中央値は3.6mSv)、小児では最大値23mSv(中央値4.2mSv)だった。これらの値は、安定ヨウ素剤の内服は不要だったことを示唆する。

 福島では全小児を対象とする甲状腺スクリーニングが行われているが、医療従事者の間では倫理面に関する議論が行われており、甲状腺の異常を過剰に検出して過剰治療を引き起こすという懸念も示されている。

 放射能汚染地域で生活している住民の、放射性セシウムによる内部被曝に対する不安は、事故直後から時間が経過しても持続していた。実際に、事故直後の曝露だけでは説明できない内部被曝が生じており、食品の選択と料理法が内部被曝の危険因子であることも明らかになった。放射性セシウムは、汚染レベルが高い地域でとれたキノコ、山菜、猪や野鳥の肉などに存在していた。また、一部の保存食品(干し柿など)や海産物からも、放射性セシウムが検出された。住民に対する教育を行い、食習慣を変えるよう促すことが、内部被曝を速やかに減らすために有用と考えられる。

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