日経メディカルのロゴ画像

Lancet誌から
「MERSウイルスの変異に備えよ」
宿主はヒトコブラクダ、ヒト・ヒト感染率を上げるウイルス変異が起こればパンデミックも

 英University College LondonのAlimuddin Zumla氏らは、中東呼吸器症候群MERS)の疫学、ウイルス学、臨床症状、発症機序、診断、管理、治療、予防、流行拡大またはアウトブレイク発生の可能性などについて解説したレビューを、Lancet誌電子版へ2015年6月3日に発表した。

 レビューの原題は「Middle East respiratory syndrome」、概要は、Lancet誌のWebサイトで閲覧できる。以下に、本レビューの記載内容について、概要を記す。

MERSとは何か
 MERSは、死亡率が高い呼吸器疾患で、原因はSARSコロナウイルス(SARS-CoV)に類似した1本鎖RNAベータコロナウイルス、MERS-CoVだ。MERS-CoVは、2012年6月にサウジアラビアのジッダで、重症呼吸器疾患により死亡した患者から初めて分離された。

 世界保健機関(WHO)、米疾病対策センター(CDC)、サウジアラビア保健省によって、MERSの症例定義が作成されている。それによると、発熱と肺炎または急性呼吸器窮迫症候群に加えて、発症前14日間にアラビア半島近辺への渡航歴がある、または、そうした地域への渡航歴があり発熱性の呼吸器疾患を発症した人との接触があった場合に「MERS疑い例」とする。疑い患者にPCR検査などを行い、MERS-CoVの感染が確認された場合に「MERS確定例」となる。

MERSの患者数は?
 2015年5月31日までにWHOに報告されたMERS確定例は1180人で、うち483人が死亡した(死亡率は40%)。症例のほとんどは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦で発生している。最も患者数が多いのはサウジアラビアで、1016人が発症し447人が死亡した(死亡率44%)。しかし、欧州、米国、アジアでも、中東からの旅行者、またはそうした旅行者と接触した人のMERS発症が報告されている。二次感染は、家族内と院内で多く発生している。

MERSウイルスの宿主は?ヒトへの感染様式は?
 MERS-CoVの主な宿主はヒトコブラクダで、MERS-CoVに感染したラクダは軽症の鼻炎を発症するが、全身性の疾患は現れない。ウイルスは数日間にわたって排出されるため、ラクダからラクダへ、ラクダからヒトへと感染が起きて、進行中のアウトブレイクが発生したと考えられている。ただし、発症者の中にラクダと接触があった患者はわずかしかいないため、ほとんどの感染はヒト・ヒト間で起きたと考えられている。未知の中間宿主が存在する可能性も否定できないが、現時点では、ヒトへの感染が確認されている宿主はヒトコブラクダのみである。

 ヒトへの感染の多くは、接触感染と飛沫感染によることが明らかになっているが、詳しいウイルス伝播様式は明らかではない。

 一部の患者では、血液、尿、便にもウイルスRNAが検出されるが、気道に存在するウイルス量に比べればはるかに少ない。気道では、ウイルスは上気道より下気道(気管吸引物、気管支肺胞洗浄液)に多く存在する。発症から1カ月経過しても、多くの患者の下気道にはウイルスが認められる。これは、感染者が長期にわたってヒト・ヒト感染の原因になる可能性を示唆する。

この記事を読んでいる人におすすめ