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JAMA Internal Medicine誌から
米砂糖業界による冠疾患リスク隠蔽の歴史
脂質のリスクを強調しレビュー論文にも介入

 2016年1月に米食品医薬品局(FDA)が公開した最新のDietary Guidelines for Americansには、塩分や脂質に加えて、糖類の摂取基準が初めて提示されている。ここに至るまでの道のりにおいて、砂糖業界が果たした役割について調べた米Philip R. Lee Institute for Health Policy StudiesのCristin E. Kearns氏らは、1960年代に、砂糖の売上げ低下を回避するために、業界が、冠疾患リスクを高める食品成分に関する研究の結果をゆがめて、砂糖の健康リスクを隠蔽しようとしたことを明らかにした。詳細は、JAMA Internal Medicine誌電子版に2016年9月12日に報告された。

 1950年代に冠疾患死亡率の上昇が顕著になり、食事を介して摂取するコレステロール、フィトステロール、過剰な熱量、アミノ酸、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどが冠疾患リスクに及ぼす影響が検討された。1960年代になると、2人の著名な生理学者が冠疾患リスクを高める食品成分についてそれぞれ異なる説を提示した。John Yudkin氏は、食品への砂糖(蔗糖)の添加が主な危険因子であるとし、Ancel Keys氏は、総脂肪、飽和脂肪、コレステロールが危険因子であるとした。しかし、1980年代になるまで、砂糖添加が冠疾患に有意な影響を及ぼすと考えていた専門家はほとんどいなかった。1980年に作成された初めてのDietary Guidelines for Americansも、冠疾患予防には、総脂肪、飽和脂肪、コレステロールの摂取を減らすことが重要としていた。なぜ、20年近くも、砂糖の影響に対する関心が高まらなかったのか。

 冠疾患リスクに対する砂糖の影響については現在も議論があるが、明確なのは、米砂糖協会に率いられる砂糖業界が、食品に添加された砂糖の摂取と心血管疾患リスクの関係を一貫して否定していることだ。著者らは、砂糖業界の内部文書を用いて、1950~60年代に行われた、冠疾患リスクを高める食品成分に関する科学的な議論に、業界がどのようにして影響を与えてきたかを検討した。

 砂糖の冠疾患リスクが最初に疑われたのは1950年代だった。著者らはSugar Research Foundation(SRF;1943年創設。砂糖を原料として付加価値を高める製品開発のための研究を実施)の内部資料や、冠疾患の原因となる食品に関する声明などの中から情報を収集した。さらに世界中の図書館にある文献を検索できるWorldCatを利用して、SRFの年報やシンポジウムの議事録、研究に関する内部審査などを含むSRF関連の文書を得た。また、米科学アカデミー/研究評議会(NAS-NRC)、米公衆衛生局、米心臓協会(AHA)、米医師会(AMA)などが公開していた、1950~60年代の心血管疾患の原因になる食品成分に関する科学的な議論の内容なども検討対象にした。

 著者らは、米イリノイ大学の教授だったRoger Adams氏が、1959年から1971年までSRFの科学諮問委員をつとめていたことを知り、University of Illinois Archivesを調べて、Adams氏が著者に名を連ねている319編の文書(1551ページ)を選出した。また、米Harvard大学公衆衛生大学院の栄養学の教授だったMark Hegsted氏が、1965年から1966年まで、SRFにとって初の冠疾患研究プロジェクトの指揮にかかわっていたことが明らかになったため、Harvard Medical Libraryから、Hegsted氏がかかわった27編の文書(31ページ)を同定した。それらの文書も分析対象にした。

 1954年に当時のSRF会長のHenry Hass氏は「砂糖の売上げを増やすためには、米国民に低脂肪食を食べさせることが大切だ。脂肪から摂取する熱量を20%減らし、その分を炭水化物から摂取するとして、炭水化物に含まれる砂糖の割合がこれまでと同じであれば、砂糖の摂取量は増え、さらに国民は健康になる」と説明をしていた。また、生化学の知識がない国民に「砂糖は人が生きるために必要な成分だ」と教えるキャンペーンに60万ドル(2016年に貨幣価値に換算すると530万ドル)を投入した。

砂糖が血清コレステロール値を上昇させるエビデンスが増加

 1962年に、SRFは、低脂肪で砂糖の含有量が多い食事には血清コレステロール値を上昇させる可能性があることを示したエビデンスが増えていることに不安を抱いた。同年の科学諮問委員会の会合では、冠疾患領域の研究を注意深く見守る必要があるという点で意見が一致していた。

 1964年末にSRFの分科委員会は、Yudkin氏らが1957年から行ってきた住民ベースの研究などによって、飽和脂肪酸が冠疾患の原因になること、砂糖もこの疾患の危険因子として重要であることが示され、他の炭水化物に比べ砂糖は熱量源として望ましくないことを示すデータが蓄積されていることを危惧した。そこでSRFは反撃プログラムへの投資を開始した。一般国民に対するアンケート調査を行って向かうべき方向を探り、砂糖が危険因子であることを国民が知る前にそうした考えを批判するためにシンポジウムを開催、砂糖が危険因子であるという主張に反論する冠疾患研究に対する資金の提供を決めた。

 1965年にはSRFは、米Harvard大学公衆衛生大学院の栄養学科の長をつとめていたFredrick Stare氏を科学諮問委員会の特別委員として迎え入れた。氏は冠疾患と食品成分に関する専門家で、NAS、国立心臓研究所、AMAなどの相談役もつとめていた。

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