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医学研究の新司令塔、医療研究開発機構(AMED)の発足に向け
「研究費のレフェリーには若手も登用する」
AMED初代理事長に就任する末松誠氏(慶應義塾大学医学部長)に聞く

1983年慶應大医学部卒。同内科学教室に入局。92年医学博士号取得。米California大学San Diego校などを経て、2001年慶應大医学部医化学教室教授。07年から同大医学部長。主な研究分野は、代謝システム生物学、ガス状メディエーターによる生体制御の生物学(Gas Biology)。写真:秋元 忍

 政府は2014年10月末、ライフサイエンス研究や医学研究の司令塔として、2015年4月に発足する日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Developement:AMED)の初代理事長の人事を決めた。白羽の矢が立ったのは慶應大の末松医学部長。就任後は研究現場を離れ、理事長の仕事に専念する予定だ。2014年11月25日、日経バイオテクの取材に現在の心境や抱負について語ってもらった。

――2007年10月の医学部長就任後、大胆な改革を行った。

 医学部と病院は、四半世紀にわたって赤字続きだった。就任時、医学部の予算規模は100億円、病院は500億円だったが、毎年合計20億円から30億円の赤字が出ていた。2017年の医学部創立100年に予定されていた新病院棟建設に当たり、財務改革は避けて通れなかった。加えて当時、医師不足による医療崩壊が進む中、医師として働いている大学院生の無給医問題が表面化。さらに財務が悪化するかもしれないという事態が生じた。

 こういう状況下で、単にコストカットしても意味は無い。当たり前だと思っていた項目を全て見直そうと考え、まずは医学部において、研究室に分配されていた経常費研究費を削減し、他の目的に使うことにした。当時は約50ある研究室に対し、設備費、消耗品費などそれぞれ費目立てで経費が配られており、費目間流用ができなかった。そこで、費目間流用ができるようにしながら、経費を削減。当初は反対意見もあったが、最終的に研究室へ配分する経常経費は半分近くに圧縮できた。

 並行して外部研究資金を積極的に狙い、公的資金の間接経費を使用して研究環境のインフラ整備を進めた。教授会の協力が得られたこともあり、就任前後で外部資金の獲得額は約2倍になり、間接経費等が年間数十億円入るようになった。2011年7月には厚生労働省の事業で免疫難病分野の「早期・探索的臨床試験拠点」に選定され、病院に「臨床試験病棟」を立ち上げた。再生医学、代謝システム生物学、免疫・炎症など各分野で、どのような研究クラスターを構築すべきか考えながら、強力な人材を揃え、設備を整備してきたことが奏功したと考えている。

 一方、毎年1億数千万円を投じ、大学院生に対して経済的支援を行う大型の奨学金をつくった。加えて、無給医の完全解消を目指しつつ、女性医師を確保するため、従来より柔軟に働ける環境も整備した。女性医師の時給などまだまだ改善の余地もあるが、最低限の策は講じられたのではないか。

――様々な専門分野を有する医師が、診療科の壁を越えて関わる「クラスター診療」の体制整備にも力を入れている。

 例えば、自己免疫疾患に対する抗TNFαモノクローナル抗体などの生物製剤による治療では、リウマチ内科だけでなく、整形外科や皮膚科、眼科など、異なる診療科の協力が必要になる。2010年9月に病院に開設した生物学的製剤専門の「免疫統括医療センター」では、外来で点滴治療を行っているが、そこにも各診療科の医師が関わっている。研究クラスターやクラスター診療を構築する中で、縦割り診療の空白を埋めることができた。2009年に改称した「スポーツ医学総合センター」や「臨床遺伝学センター」なども同様だ。

 2014年4月に開設した「百寿総合研究センター」も分野横断型の研究センターだ。慶應大は、全国の100歳以上の超高齢者約900人分のレジストリ(医療・健康情報の登録)を持っている。110歳以上に限ると百数十人分あり、国内のコホート研究でも対象外になっているような超高齢者の研究が可能だ。超高齢者がなぜ致死性の脳梗塞や心筋梗塞、あるいは癌を発症しないのか。ゲノム解析やメタボローム解析などを活用し、同センターでその理由を明らかにしたいと考えており、精神科や整形外科、神経内科など関連の診療科で横断的に研究を行う予定だ。さらにその成果をクラスター診療に落とし込み、各診療科が連携して超高齢者医療を推進できる人材を育成したいと思っていた。

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