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第8回国際バイオフォーラムから
ブタ由来H1N1の病原性は季節性ウイルスより実は強い
フェレットの肺で顕著な増殖を示す

 これまで、病原性は季節性インフルエンザと変わらないと考えられてきたブタ由来A/H1N1インフルエンザウイルスだが、季節性ウイルスとの違いが徐々に明らかになってきた。東大医科学研究所感染症国際研究センター長の河岡義裕氏は、7月3日、東京ビッグサイトで開催された第8回国際バイオフォーラムで講演。一般の関心が高いポイントについて、最新のデータを発表すると共に、それらに関連する事項について見解を述べ、秋から冬にかけて、日本でもブタ由来H1N1感染の重症化に備える必要があると指摘した。

 主に新たな知見に焦点を当てて、河岡氏の報告の要点を以下に概説する。

●今後流行はどうなるのか
 現在、南半球のオーストラリアや南米で感染が拡大し、死者が出ている。これらの地域で流行しているインフルエンザウイルスはほとんどがブタ由来H1N1であり、季節性のウイルスは非常に少ない。北半球でもこの冬、同様の現象が見られる可能性は高い。

●日本でどのくらいの人がブタ由来H1N1に感染するのか
 季節性インフルエンザであっても、流行する年には国民の約10%が感染する。ブタ由来ウイルスの場合、ほとんどの人に免疫がないことから、30%以上が感染する可能性は十分にある。

●高齢者は感染しにくいのか
 若者が感染しやすく、高齢者は感染しないというのは誤解だ。

 季節性インフルエンザでも、感染者のほとんどは、活動性が高く人との接触が密接な15歳未満だ。その一方で、65歳以上の高齢者は、罹患率こそ低いが死亡率は高い。ブタ由来H1N1でも状況は同じになるため、高齢の感染者が死亡する可能性はある。

 CDC(米疾病対策センター)が発表した、60歳以上の人の一部に抗体が存在するというデータも、高齢者が感染しないという誤解の原因の一つになっているが、河岡氏らが別個に調べたところ、実際に抗体を持つのはさらに高齢の世代であることを示す結果を得ているという。

●病原性は季節性インフルエンザと同様か
 5月20日の時点では、CDCは、ブタ由来H1N1による入院患者の70%に危険因子があったと報告していた。しかしそれ以降、危険因子のない入院患者が増えて、現段階では50%に危険因子なしとの見解になっている。現在CDCは、一見健康な人も重症化することに強い懸念を抱いている。

 河岡氏らは、季節性インフルエンザとブタ由来H1N1の病原性の差を明らかにすべく、マウスを対象とする感染実験を行った。成長過程のマウスにウイルスを感染させて、体重の変化を比較した。

 1万個のウイルスを感染させたところ、季節性ウイルス感染マウスとブタ由来H1N1ウイルス感染マウスの体重の変化はほぼ同様だった。10万個のウイルスを感染させると、季節性ウイルス感染マウスは感染後も体重は緩やかに増加したが、ブタ由来ウイルス感染マウスにおいては、体重がいったん減少し、その後回復していた。

 100万個のウイルスを用いると、顕著な差が見られた。季節性ウイルスでは、体重は当初減少するも4日目前後から徐々に回復したが、ブタ由来ウイルス感染マウスでは体重は直線的に減少、5日後に死亡した。これは、病原性に明らかな差があることを示す。

 さらに、フェレットを対象とする感染実験を行い、臓器特異的な増殖能を比較した。各3匹ずつ季節性ウイルスとブタ由来ウイルスに感染させて、3日目に鼻甲介、気管、肺のウイルス量を測定したところ、鼻甲介ではウイルス量に差はなかったが、気管ではブタ由来ウイルスの方が盛んに増殖していた。さらに肺では、季節性ウイルスは全く増えず、ブタ由来ウイルスは顕著な増殖を示した。

 CDCの研究者によると、ブタ由来H1N1感染が重篤化し、死亡した患者の肺の病変は、H5N1感染による死者の肺とよく似ていたという。

 ブタ由来H1N1感染者では、肺症状の発現と重症化に十分注意する必要がある。

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