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【ニュース解説】英国「TG1412」臨床試験で何が起きたのか(前編)
多くの被験者は回復へ、原因は引き続き調査中

2006/03/31
大西淳子=医学ジャーナリスト

 英国で3月半ば、抗体医薬「TG1412」のフェーズ1臨床試験で、投与直後に被験者が次々に倒れ、全員が多臓器不全に陥るという事件があった。なぜか日本の一般メディアではほとんど報道されていないが、英国では大衆紙を含む全メディアが連日トップ扱いで報じてきており、欧米各国では医療界や製薬業界はもちろん、一般社会を揺るがす大事件になっている。

 英国製薬史上最悪、世界でも例を見ない悲劇的な展開を見せた「TG1412」フェーズ1試験の被験者たちは、惨事から2週間たってもNorthwick Park病院に入院している。炎症反応による多臓器不全の原因は何だったのか。ロンドン警視庁まで調査に乗り出した今回の事件は、前臨床段階の安全性評価法に対する疑問や、治験申請の方法、承認過程などに対する批判、さらに、今後、抗体医薬の臨床試験が行えなくなるのではないかという不安をも巻き起こした。

 被験者たちに現れた症状に関する一般メディアの情報は、偽薬群に割り付けられたために無事だった被験者の目撃談や、被害者の事務弁護士の証言に基づいている。投与は静脈注射で行われたが、真薬群の6人はいずれも、静注後数分で異変を示し始めた。体が急激に熱くなり、強烈な頭痛が始まり、頻呼吸となって、やがて嘔吐、さらに頭や背中の痛みにのたうち回ったという。投与から90分以内に全員が倒れ、12時間以内に、全員が多臓器不全に陥った。

 集中治療室で、患者に対する慎重な監視と治療が開始されたが、2人は生命が危ぶまれる状況となった。面会した家族や友人は、これら2人の患者の頭頸部が異常に膨れ上がり、手足は紫色に変色していた、と一部メディアに語っている。が、Daily Mail紙の記事によると、担当医であるGanesh Suntharalingam氏は、頭部の異常な腫れがあったかどうかに関する返答は拒否したものの、患者には大量の輸液が必要で、そうした治療は浮腫を招く、と説明したという。集中治療室で、患者たちは、人工呼吸器を装着され、血液透析を受けた。さらに、ステロイドなどを用いた抗炎症治療が手探りで続けられた。

 Northwick Park病院を含むNHS trust(病院や地域の医療サービスの運営母体)North West London Hospitalsは、Webサイトで、患者の容態に関する公式発表を連日掲載してきた。これによると、医師たちは、3月16日の時点で、真薬投与後に起きた「炎症反応による多臓器不全」の状態に対して、「抗炎症治療」を行っていると述べている。3月24日の時点では、4人は順調に回復、集中治療室から別の病棟に移って治療を受けているが、重症の2人については、「1人には回復傾向が見られるものの、もう1人は引き続き深刻な状態」と報告されている。

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