英国ロンドンで2006年11月に発生したポロニウム-210によるAlexander Litvinenko氏の殺害事件(リトビエンコ毒殺事件)。この事件が起こったとき、社会はどのようにリスクを認識し、当局の対応についてどう感じたのだろうか。英国London大学King’s CollegeのG James Rubin氏らは、事件後の健康リスクに関する市民の認識の度合いを知り、人々の健康を守るために英国健康保護局(HPA)が用いたコミュニケーション戦略の効果を評価するための調査を実施した。詳細はBMJ誌電子版に2007年11月1日に掲載された。
一般市民の健康を脅かすような事件や事故が発生した場合、公衆衛生当局は、明確で一貫した情報をタイムリーに提供すると同時に、健康リスクに対する不必要な不安を払拭し、健康を守るための防護策を伝える必要がある。とはいっても、環境において有毒物質に曝露した場合などは、人々の主観的なリスク評価が客観的なリスクレベルと大きく異なる可能性がある。リスクを過剰評価すると、不安が高まる。
今回の事件でHPAは、Litvinenko氏の死亡後、寿司レストランとホテルのバーを中心に調査を開始した。曝露リスクのある人々からの連絡を求め、当局の相談窓口(NHS Direcrt)に電話してきた市民のうち、実際に曝露が想定される人にはHPAから折り返し連絡して情報を提供。リスクが高いと判断された市民には尿検査を実施した。並行してほぼ毎日リリースを発表、状況説明も行った。
著者らは、人々が感じるリスクのレベルは、各人の事件との関係の深さよって異なると考え、2通りのアプローチを行った。
第1は、人口統計学的にロンドンの成人市民を代表するよう無作為に選出した人々を対象とする電話調査だ。第2は、質的インタビューで、曝露が起こり得ると見なされた寿司レストランとホテルのバーに、該当する日時にいた人が対象となった。
1人当たり15~20分の電話調査で、著者らはポロニウム-210に関する知識レベルや事件の性質に関する認識が、自らの健康に及ぶリスクの評価に影響を与えるかどうか調べた。電話調査に回答した1000人中11.7%(117人)は、健康リスクを感じていた。
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