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jsh2014

JSH2014に参加して●島本和明氏(札幌医科大学学長)
米欧から自立した日本のガイドラインが完成しました

2014/10/27
談話まとめ:日本高血圧学会取材班

札幌医科大学学長の島本和明氏

 今回の日本高血圧学会の目玉の1つが、昨年から今年にかけて日米欧で相次いで発表された新しいガイドラインにあったことは間違ありません。初日の主会場は、そのほとんどがガイドラインに関連したセッションでした。我が国の「高血圧治療ガイドライン2014」(以下、JSH2014)の作成委員長を務めた私は、米国、欧州、英国のガイドラインの編集責任者との議論を通じ、改めてJSH2014の「自立」を強く意識しました。

 自立とはどういうことなのか、説明しましょう。欧州高血圧学会/欧州心臓病学会の新しいガイドライン(ESH/ESC2013)が発表されたのは、2013年6月です。JSH2014は最終案をまとめる直前だったので、どこが変わったのか皆注目しました。

 ところが読んでみると、治療目標や薬剤選択などの考え方が硬直的となり、1999年のWHO/国際高血圧学会(ISH)年のガイドラインに戻ったような印象を受けました。それ以降15年にわたるエビデンスや議論が抜け落ちてしまったかのようだったと言えるかもしれません。

 まず治療目標ですが、ESH/ESC2013では慢性腎臓病(CKD)や糖尿病があっても、一律に収縮期血圧(SBP)140mmHg未満を推奨しています。推奨の一覧表において、それに該当しないものはSBPが160mmHg以上の高齢者(目標はSBP 140~150mmHg、80歳未満では可能なら140mmHg未満)と糖尿病合併例の拡張期血圧(85mmHg未満)だけです。

 1つ前のESH/ESC2007では、糖尿病合併高血圧の治療目標は130/80mmHg未満でした。これをSBP 140mmHg未満に引き上げた大きな理由は、119mmHgまで下がった厳格治療群と133mmHgだった標準治療群を比較したACCORD-BP試験で、厳格治療群における心血管イベント発生率の有意な減少を確認できなかったためです。

 糖尿病合併例ではこのようなエビデンスがあるのですが、CKDでは130/80mmHg未満に下げることによる利益を示したエビデンスがないという理由で、SBP 140mmHg未満へと引き上げられました。降圧薬の選択に関しても、利尿薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の全てが横一線で推奨されています。

 ところがESH/ESC2013を読んでいくと、後の方ではCKDで顕性蛋白尿ならば130mmHg未満を目標としてもよいと書かれています。また微量アルブミン尿や腎障害があれば、降圧薬はACE阻害薬/ARBを使ってもよいとしています。最初の推奨のところではこのような注釈は書かれていない上、後ろの方でも「目標としてもよい」「ACE阻害薬/ARBを使ってもよい」という表現なので、読む人によって解釈が異なってしまう可能性があります。

 このようなことになったのは、推奨に関してランダム化比較試験(RCT)によるエビデンスの存在を特に重視し、そのエビデンスがないところは「行ってもよい」といった表現にとどめたためといえるでしょう。その結果、かえって分かりにくいものになってしまった。

 米国の新しいガイドライン(JNC8)では、RCTによるエビデンスを重視する姿勢がさらに強く打ち出され、クリニカルクレスチョンは3つしか設定されませんでした。その結果、ガイドラインは全体で14ページしかありません。

 RCTによるエビデンスは非常に限られており、それだけで日常診療で遭遇する様々な問題を解決することはできません。疾患の全体像が把握できてこそのガイドラインであるはずです。エビデンスがない部分は、専門家がディスカッションしてコンセンサスで埋めるという努力が必要です。

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