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 以前に本コラムで一度紹介した(記事はこちら)友人から、持続血糖測定(CGM)を使った糖尿病療養に関する続報が入った。彼の話を聞きながら頭に浮かんだことをまとめたこの記事は1例報告に基づく記者の私見に過ぎないが、お付き合いいただければ幸いである。

 当該の友人の糖尿病歴を振り返っておく。年齢は50歳代後半、罹病歴は7〜8年、BMI 20の痩せ型で、HbA1cはほぼ6.0%。空腹時血糖は正常域だが食後高血糖が顕著という、典型的な早期の糖尿病だ。診断当初の処方である常用量下限のαグルコシダーゼ阻害薬(αGI)で、朝食から2〜3時間後の外来受診時の検査では正常血糖、HbA1cも5%台前半だったため「Good Control」としてフォローされていた。ところが徐々にHbA1cは6%台に上昇。その理由が判然としない中、たまたま使ってみたFreeStyleリブレのCGMデータから、食後高血糖はほとんどコントロールできていなかったことが判明した。その後はCGMを行いつつ食後高血糖が制御できる薬物治療を探しているが、なかなか見付からない──というものだ。

 結局、αGIの最大用量への増量、DPP-4阻害薬単独、SGLT2阻害薬単独、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の併用などではうまくいかず、DPP-4阻害薬とαGIの併用で、なんとか食後高血糖を抑制できたとのこと。食事量が多い夕食後でもピークは140mg/dL程度に納まり、そのときは「やっと最適解がみつかった」と安堵したそうだ。

 だが、話はそこで終わらなかった。DPP-4阻害薬を始めてから、次第に便秘、上腹部不快感、呑酸といった広範な消化器症状に悩まされるようになったという。空腹感を感じることがなくなり、常時胃がもたれている感覚を持つようになり、便も週1〜2回。寝る前にビールを飲んだときなどは夜半に呑酸で目覚めてしまうようになった。器質的疾患を疑って上部消化管内視鏡検査を受けたが、所見は軽度のGARDと表層性胃炎のみだった。

 「症状が強いときにPPIを飲んではどうか」と内視鏡医からは提案されたそうだが、この年齢からポリファーマシーになるのは避けたいし、DPP-4阻害薬が原因ならそちらを止めるのが筋だろう。こう彼は考え、主治医と相談してDPP-4阻害薬を中止してみた。すると、2週間ほどで便秘も呑酸も上腹部不快感も、消化器症状全てが霧散したという。

 DPP-4阻害薬は、GLP-1やGIPなどの消化管ホルモン(インクレチン)の分解を抑制することで、インスリン分泌を促進させる。血糖上昇時のインスリンの追加分泌を増強するという機序なので、単独投与であれば低血糖が起こるリスクも少ない。こうした特性から、同薬は肥満が軽度で早期からインスリン分泌能が低下する日本人の2型糖尿病に適した薬剤とされている。この評価は強固なものであり、我が国の2型糖尿病患者に対するDPP-4阻害薬の処方率は7割を超えるとみられる。実質的な第一選択薬だ。

 インクレチンには消化管運動抑制、胃内容物の排出遅延といった作用もあり、これも糖尿病の血糖コントロールにはプラスになるとされている。糖尿病の病態から見れば好ましい作用であり、DPP-4阻害薬のセールスポイントにもなっているのだが、残念ながら彼の場合はそれが強く出現してしまったのだろう。

 代表的なDPP-4阻害薬で彼も服用していたリナグリプチン(トラゼンタ)の添付文書を読むと、国内の臨床試験での主な副作用として、低血糖症(2.1%)に続き便秘1.7%、鼓脹1.0%、腹部膨満0.6%などが挙げられている。治験時の副作用の発生頻度を実臨床にどれだけ適用できるか限界はあるものの、低血糖症とともに消化器症状が代表的な副作用になっていたのは、不勉強ながら初めて知った。

 彼がDPP-4阻害薬を止めたときは、αGI(ミグリトール、75mg1日3回)と併用していた。αGIにも消化器系の副作用は起こりやすく、両者の併用が症状を強めたと考えられないか。その点をただすと、ミグリトールのみを最大用量で飲んでいるときでも放屁の増加を感じる程度で上腹部不快感や呑酸はなかった上、こうした広範な消化器症状は程度の差はあれDPP-4阻害薬を単独で飲んでいるときから生じていたとのことだった。

 繰り返しになるが、我が国でDPP-4阻害薬の処方率は圧倒的に高い。彼の話を聞いているうち、DPP-4阻害薬は日本人に適した糖尿病治療薬という認識があまりに確固であるため、比較的軽微な副作用は見過ごされているのではないかとの疑念が生じた。同薬を投与している患者に、もう少しきめ細かく消化器症状のことを聞いてみると、実は自覚しているという患者は意外に多いかもしれない。「DPP-4阻害薬に死角あり」とは、言い過ぎだろうか。

 インクレチン作動物質の血中濃度が桁違いに高くなるため同列には論じられないものの、GLP-1受容体作動薬では消化器症状による投与中断はまれではない。また推論の域を出ないが、ミグリトールには下部小腸からのGLP-1分泌促進作用があることから、DPP-4阻害薬との併用によってインクレチンの血中濃度の上昇が顕著で消化器症状が強まった可能性はある。いずれにしても、処方されたDPP-4阻害薬を「何となく胃がもたれるから」と自己判断でこっそり止められてしまっては、元も子もない。

 さて、彼はDPP-4阻害薬を中断したことで、食後高血糖を起こさない薬物治療の検索は振り出しに戻った。もはや選択肢はあまり多くない。吸収阻害薬とインスリン分泌促進薬の組み合わせが良いのなら、αGIとグリニドの併用が最右翼だろう。DPP-4阻害薬の錠剤には常用量の2分の1や4分の1の規格もある。少量なら耐えられるのかもしれない。今度会うまでには、「最終解」にたどり着いていてほしいものだ。

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