人工呼吸器を装着した女性患者の自宅における訪問看護。看護師が行うケアを横でじっと見ては、「前のやり方と違う!」といちいち口を挟む夫。別の日に訪れた妊娠中の看護師には「やることはやっているんだな」とあからさまなセクハラ発言をして、揚げ句には「それでも看護師か」と人格否定の暴言が飛び出す。男性の理学療法士が訪問すると、今度は「何で妻の胸ばかり触るんだ」とクレーム──。
施設の中で患者の家族がこのような暴言を繰り返せば、今の御時世、さすがに何らかの対応や注意がなされるだろう。しかし、訪問サービスの現場では、このようなケースが放置、あるいは表面化すらしないこともいまだ珍しくない。
さらには、職員の生命に危害が及んでもおかしくないというケースも起こっている。精神障害者に対する居宅介護でホームヘルパーの到着が遅れ、刃物を右手に持った利用者が「俺は前科持ちなんだ。キレると何をするか分からないのは知っているよな」とすごむ。「患者が興奮しても10分ほどで落ち着く」との情報を事前にサービス担当者会議で得ていたヘルパーはその場から逃げることなく、幸いにも利用者をなだめ落ち着かせることができた。
刃物を突きつけられた時点で警察に通報してもおかしくないケースだが、担当のヘルパーはその事実を暴力被害とは認識せず、法人本部に報告することはなかった。事業所の管理者でもあるヘルパーが本部にトラブルとして報告したのは数日後。刃物を突きつけられたことに対してではなく、その後に何度もかかってくる利用者からの電話にたまりかねてのことだった――。
これらのエピソードは、日経ヘルスケア2019年5月号の特集「医療・介護のクレーム・トラブル最新事情」の取材の中で聞いた、つい最近起こった事例だ。
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