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記者の眼

「緩和ケア」という言葉が分かりにくい理由

2019/03/04
関本克宏=シニアエディター

 「かぜをひいたみたいです」と受診した患者に総合感冒薬を処方しても、それは治療ではないのだろうか。ウイルスに対する手立てだけが治療で(かぜでは存在しないけど)、それ以外はケアなのだろうか。などということをずっと思いながら、議論を聞いていた。2月21日に日本緩和医療学会が開催したメディアカフェ「緩和ケアの報道に関する意見交換会」の場でのことだ。

 この意見交換会は、「緩和ケアはがんが治る見込みがなくなったときから実施されるべきもの」「医療用麻薬は最後の手段だと思う」といったように市民の間に緩和ケアの正しい知識が十分に浸透していない状況に対して 、メディアと協力して啓発に取り組もうという目的で持たれ、学会として初めての試みだそうだ。緩和医療学会として伝えたいことと、メディアとして取り上げたいこととの間に、大きな隔たりがあるのではという問題意識から始まっている。

 学会から提示したいトピックスとしては、
・ACP(Advance Care Planning)
・プロセスガイドライン(厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」)
・緩和ケアに関する言葉のイメージ
・診断時からの緩和ケア
・終末期鎮静
・在宅緩和ケア
が挙げられていた。

 議論はがん相談支援センターや緩和ケア外来、緩和ケア病棟などにおける実際の問題を端緒に進んで行ったのだが、どのトピックも最終的には緩和ケアに対するイメージの問題に収斂していったように見えた。

 資料にも以下の記述があった。
・「緩和ケア=終末期」「医療用麻薬=中毒」、これらの根深い誤解は言葉そのもののイメージとして今なお多くの人に認識されている。がん対策基本法成立後14年目を迎えるが、緩和ケアの現場において適切な理解を得て治療を行う際、いまだに立ちはだかる分厚い壁である。「緩和ケアでは痛みは取ってもらえるが、命は短くなる」という誤解にもしばしば直面する。
・「診断時からの緩和ケア」を進めているが、なかなかそのようになっていないのが実情である。治療を担当してきた主治医サイドのスタンス、「緩和ケアなんてまだ早い」という患者の気持ちなど、原因は複数あると思われるが、普及のための新たなアプローチの可能性について話し合いたい。

 認識を新たにしたのが、日本における緩和ケアには3つの方向性があるということだ。1つは死の過程への援助や人生の統合を行うホスピスケア、エンドオブライフケア。それに加えて早期からの専門チームの介入による予後の延長を目指す早期からの緩和ケア。そして告知時の衝撃の緩和や意思決定支援を行う診断時からの緩和ケアだ。そして診断時からの緩和ケアはすべての医療者が提供すべき基本的緩和ケアであり、基本的緩和ケアでは十分に患者の苦痛やつらさが緩和できない場合に、より専門的なチームによって提供される専門的緩和ケアがあると説明された。その目的も提供者も異なる複雑なものを、ひとつの言葉でイメージすることは難しい。

 診断時からの緩和ケアは、2016年12月のがん対策基本法改正で「国及び地方公共団体は、がん患者の状況に応じて緩和ケアが診断の時から適切に提供されるようにすること」とされたのに基づいており、WHOの緩和ケアの定義にはない。ちなみに「緩和ケアとは」に関して法律で定義されているのは日本だけだそうだ。日本は緩和ケアに関して、独自の道を歩き出しているようにも思える。

 がん治療の目的は治癒、予後の延長とQOLの向上であり、緩和ケアの目標はQOLの向上であり予後に良い影響を与えることだという。両者の目標は一致しており、互いに補い合うとされる。そしてよく提示されるのが、下の包括的がん医療モデルの図だ。

日本緩和医療学会のパンフレット
「これからがん治療を受ける方へ がんとわかったときからはじまる緩和ケア」より

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