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記者の眼

腹腔鏡ではなくロボット手術でお願いします

 「da Vinci Surgical System(ダヴィンチ)」を用いたロボット支援下内視鏡手術(ロボット手術)の保険適用の対象が大きく拡大された。新たに胃癌や食道癌、肺癌、直腸癌など、12の術式で保険の適用が認められることとなった。

 しかしながら既に保険適用されている前立腺癌や腎癌とは異なり、ダヴィンチを用いることによる加算は付かず、現在これらの疾患に対して行われている胸腔鏡下手術や腹腔鏡下手術と同じ点数とされた。ロボット手術は既存の手術と同等程度の有効性・安全性を有すると考えられるものの、優越性を示す科学的根拠が十分には示されていないことが反映された。ダヴィンチの減価償却費、保守点検料、消耗品などを考慮すると、医療機関にとっては赤字となる。

 今回の保険適用の背景には、評価基準の変更と先進医療の位置付けの変化、そして世界に取り残されるのではという危機感があった。

優越性が示されていないものをどう評価するか

 新規技術の保険適用は、まず関係学会からの提案(外科の場合は外保連試案)を中央社会保険医療協議会(中医協)の医療技術評価分科会で審議し、それを受けて中医協総会で決定される。

 これまで医療技術評価部会においては、新規医療技術に関する提案について、代替となる既存技術と比較して優越性があるかどうかを評価してきた。しかしながら昨年10月の第1回医療技術評価分科会では、ロボット支援下手術に関して、同等程度の有効性、安全性を有すると考えられるが優越性までは示すことができないものについて、保険診療上の取り扱いをどうすべきかが議論された。

 そこで出たのは、ある程度安全性が担保されたものから保険の枠内でやれるような形に持っていかないと、世界に遅れてしまうという意見。保険診療で症例を増やしていけば安全性や有効性を客観的に評価できるようになるものに関しては、きちんとレジストリを作り、厳しめの施設基準を設けてレベルの高い施設で評価を行った上で、その後施設基準を緩めていく、手術点数を上げていくというのが1つの手法だろうという方向性になった。

 外保連の会長であり内視鏡外科学会の理事でもある委員の岩中督氏は、「標準化して普及させるという保険収載の目的に対して、ハードルを付けるというやり方が今後新しいものに対する仕組みになってしまうということに関してはいささか抵抗があるが、袋小路に入りかかっている先進技術を日本の外科医療の中で展開していくためには、制限を付けた上で保険収載することは、しかるべき領域の学会が責任を持ってやるという前提で1つの方法かなと思っている」と発言している。

 また既存の手術と同等程度有効と考えられる技術を保険適用するとすれば、診療報酬も同等程度の評価とするのが自然だろうという方向性も示された。

先進医療との整合性は?

 もう1つ、今回の保険適用で変化があったのは、先進医療における評価との整合性である。新規技術の保険適用では医療技術評価分科会を経るルートとは別に、保険診療となることを前提とした先進医療会議の評価もこれまで中医協総会に提出されてきた。前回の診療報酬改定の際には、先進医療が行われている技術も学会から提案するものの中に含まれることになったが、医療技術評価分科会において先進医療会議との役割分担が問題になり、先進医療については先進医療会議で評価することが望ましいとなった。

 しかし今回の診療報酬改定では、「近年、多分野や多臓器の治療に用いられるような新規医療技術があり、こうした技術の保険導入について、統一的な考えのもとでより分野横断的・網羅的に検討される必要性が指摘されている」とされ、先進医療会議における評価結果も踏まえて医療技術評価分科会で他の技術とともに検討を行うことになった。付け加えれば、先進医療は施設単位での提案、医療技術評価分科会は学会からの提案である。

 ここでロボット手術の保険適用の歴史を振り返っておこう。

 最初にロボット手術が普及したのは前立腺手術で、断端陽性率が低い、膀胱と尿道を縫合する際の尿漏れの発生率が低いといったデータが示されていた。これを受けて日本では2014年に前立腺悪性腫瘍手術が保険適用され、点数は腹腔鏡手術に内視鏡手術用支援機加算54200点が付き、95280点となった。これは年間80~100例で損益分岐点を超える設計であると推測された。

 次の腎悪性腫瘍手術は、2016年に先進医療Bを通じてロボット手術が保険適応となった。先進医療は2014年9月から100例を目標に開始し、2015年2月に最終の手術を終えている。主要評価項目は根治治療と腎機能温存(切除断端陰性かつ腎阻血時間25分以内)で、ヒストリカルコントロール(過去の腹腔鏡手術)と比較するものだった。断端陽性率はヒストリカルコントロール1.7%、ロボット手術0%という結果で、保険点数は26800点の加算が付き、70730点となった。

 しかしながら、それ以外の手術ではロボット支援の有用性を示すのが難しい。30年ほど前に腹腔鏡手術が広まった時は、創が小さいことによる術後疼痛の少なさが明らかだったので、開腹手術と比べて結果の非劣勢を証明するだけで保険収載が認められたが、ロボット手術は術後疼痛という点では腹腔鏡手術と同等である。そこで、有用性として術後合併症の発症率低下を目標とした複数の先進医療が開始された。また、患者の希望を考えると対照群を設定することは難しく、試験はヒストリカルコントロールと比較するデザインとなっている。

 今回の保険適用に際して外保連試案に掲載された中で、胃癌に対するロボット手術に関しては、先進医療Bとして多施設共同前向き臨床試験が行われていた。

 日本の15施設が参加したこの試験は、内視鏡的切除の適応外とされた、術前診断でD1+またはD2郭清を伴う噴門側胃切除術、幽門側胃切除術または胃全摘術で根治手術が可能なc Stage IまたはIIの胃癌患者330例を対象とした。登録期間は2014年10月から2017年1月までで、追跡期間は3年間。主要評価項目であるClavien-Dindo分類のGrade III以上の全合併症発生率は、ロボット支援下胃切除術では2.45%となり、腹腔鏡下胃切除術(ヒストリカルデータ)の6.4%から有意に低下し、安全性で優れることが示された(p=0.0018)。最終解析は追跡期間終了後に行われる予定で、無再発生存期間(RFS)などの結果はその後に発表される。

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