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記者の眼

しゃっくりは「横隔膜の痙攣」だけで片付かない

2017/12/25
石垣 恒一=日経メディカル

 「ウイ~、ヒック」と千鳥足の酔客が増えるこの時期。飲み過ぎには注意したいが、それにしても、なぜ酔うとしゃっくりが出るのか(出る人がいるのか)? あるいは筆者もそうだが、子どもの頃は頻繁に出ていたしゃっくりが、成人してからはなぜ出なくなるのか?

 ありふれた生理現象のしゃっくりについて改めて考えてみると、理由やメカニズムには分からないことが多い。しかも、成人でも何年も続くしゃっくりに悩まされる人もいるという。そうした知見について、友愛記念病院(茨城県古河市)で毎週1回「しゃっくり外来」を行っている近藤司氏(同病院救急部部長)に聞いてみた。

 近藤氏はしゃっくりのメカニズムの基礎研究とともに、難治性のしゃっくり患者を診ていたことから、テレビ番組の企画でしゃっくりが2年止まらないという英国のミュージシャンを診察し、延髄の腫瘍を発見。その顛末が放送されて以来、慢性的に続くしゃっくりに悩む患者が全国から訪れ、これまで600人以上のしゃっくり患者を診てきた。

鼻咽頭への刺激に横隔膜と声門がシンクロして動く
 吃逆、いわゆるしゃっくりは誰もが経験する症状だが、その発生メカニズムを詳細に知る人は医師でも少ないだろう。「横隔膜の痙攣でしょう」という声が多く聞こえてきそうだが、「単なる痙攣というのが、まず大きな誤解」と近藤氏は指摘する。

 では、しゃっくりとはどのような現象か。「鼻咽頭背側への刺激が引き起こす吸気系の反射運動」(図1)。これが、近藤氏が動物実験などの研究を重ねて得た知見という。咽頭部の炎症や逆流した胃酸など、鼻咽頭背側への様々な刺激が舌咽神経を介して延髄内の吃逆中枢に伝えられ、そこからの指令が横隔神経と迷走神経を経由して伝達されて、吸気運動(横隔膜の収縮)と声門閉鎖運動が同期して起こる。これがしゃっくりの運動パターンで、息の吸い込みに急制動がかかるため、横隔膜に大きなストレスが加わる。その不快感や苦痛は誰もが知るところだろう。

 ただ現状では研究自体が少ないため、しゃっくりが反射だという理解が広まっているとは言い難い。実際、ネット上で「吃逆」あるいは「しゃっくり」と検索すれば、「横隔膜の痙攣によって声門が収縮する現象で、ミオクローヌス(筋肉の不随意収縮)」といった解説がまず見られるだろう。こうした記述を近藤氏は強く否定し、「しゃっくりが反射であることを認識しなければ、原因を把握できず、難治性しゃっくりの診療はできない」とする。

 しゃっくりを引き起こす鼻咽頭背側への刺激は、炎症に胃酸、冷たい空気、炭酸飲料など多彩。だとすれば、たくさんの人がしゃっくりに悩むことになりそうだが、幼児期を過ぎれば頻度が大幅に減ることはほとんどの人が経験している通り。

 これには、しゃっくりの反射におけるもう一つのメカニズム、脳内のガンマアミノ酪酸(GABA)による抑制が関与するという。成人の場合、日常生活の中で鼻咽頭への刺激はしょっちゅう受けるが、普段はGABAが反射を抑制。幼児がしゃっくりを頻繁に起こすのは、このGABAによる抑制系が未発達だからと考えられる。なお、酔ってしゃっくりが出るのはアルコールが神経系全般を抑える中でGABA抑制系も抑えるためで、「しゃっくりを抑えている番人が眠ってしまうから」と近藤氏はよく患者に説明するという。

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