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 8月2日に厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の初会合が開かれた。

 政府が今年3月に策定した「働き方改革実行計画」では、時間外労働の上限を法律で定め、罰則による強制力を持たせて長時間労働を是正する方針だ。秋の臨時国会にも労働基準法改正案などの関連法案が提出されるとみられる。ただし、医師については「時間外労働規制の対象とするが、医師法に基づく応招義務等の特殊性を踏まえた対応が必要」として、規制の適用が改正法施行の5年後をめどに先送りされた。時間外労働に上限を設けることで応招義務を果たせなくなるといった懸念を踏まえての対応だ。医師の時間外労働の規制のあり方や労働時間の短縮策などについては、「2年後をめどに結論を得る」とされており、これからこの検討会で議論する。

 第1回の会合では、医師の時間外労働規制のあり方や勤務環境改善策について、各委員が自由に意見を述べた。印象的だったのは、非医療系職種の委員から「医師は労働者」という前提の下、ほかの職種に近い形で時間外労働への規制を求める声が上がったのに対し、一部の医師の委員が時間外労働の規制に消極的な発言をしたことだ。

 例えば、社会医療法人ペガサス理事長の馬場武彦氏は、「自己研鑽のため、より多くの症例を経験したいという医師もいる。働きたい医師は働けるよう、新たな裁量労働の仕組みも必要ではないか」と提案。順天堂大学附属病院医師の猪俣武範氏は、「質の高い医療を担保するには、自己研鑽や研究活動、学会活動が重要になり、画一的な労働時間の制限は設けるべきではない」との見解を示した。

 これらの意見を聞いていて、医師の自己研鑽について議論する際、「対患者」の視点での配慮がないことが気になった。多くの症例を経験することが、自己研鑽につながるのは確かだ。ただ、慢性的な長時間労働が続けば、心身の不調を来しかねない。厚生労働省の資料によると、「発症前1カ月間に時間外・休日労働がおおむね100時間超」「発症前2~6カ月間の月平均時間外・休日労働がおおむね80時間超」のいずれかに当てはまる場合、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価されるという。

 たとえ医師であっても労働時間には一定の上限を設けるべきだし、その上限はほかの職種に比べて大幅に緩いものであってはならないというのが筆者の考えだ。「自己研鑽のためもっと働きたい」という医師への配慮は必要だが、月の時間外労働が200時間を超えた医師が「自己研鑽のため」といって患者を診ることが、果たしてその患者にとって幸せなことなのだろうか。「対患者」の視点で、健康に影響を及ぼさない範囲で働けるようにするための歯止めが必要だ。

 早稲田大学法学学術院教授の島田陽一氏は、「医師が労働基準法における労働者であることは動かし難い」と話した上で、医師の特殊性を踏まえる必要はあるが、医師の時間外労働の問題は高度な専門職に共通する部分も多いとし、「この検討会も政府の働き方改革の枠組みで進められていることを認識すべき」と各委員に理解を求めた。さらに、過去の判例を基に「いくら労働者本人が働きたいといっても、管理者が止めなければいけないことが、労働契約法の安全配慮義務で求められている」ことを説明し、労働者個人の意識に任せるのではなく、管理者に労働者の労働時間を意識させることの重要性を訴えた。

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