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記者の眼

退院後の精神科医療支援は「人権侵害」になる?

著者:東 徹
判型:4/6、258ページ
発行:日経BP社
定価:3780円(税込)
発行日:2017年3月13日

 精神科病院長期入院が問題視されて久しい。精神病床の平均在院日数は1年近くに及び、退院できずに一生を終える患者も少なくない。厚生労働省は精神科入院患者の削減目標を掲げ、長期入院患者の退院を促すほか、新規患者の入院が長引かないようにするなど何度も対策を実施してきた。今年1月にも、現在19万人ほどいる1年以上の長期入院患者を2020年度末までに全国で最大3万9000人減らす目標を打ち出している。

 長期入院患者がどのような人たちで、どのような暮らしを送っているのかは、医療者であっても精神科との関わりが薄ければあまり知らないかもしれない。日経メディカル Onlineで筆者が担当した東徹氏のコラムを書籍化した「精神科病院で人生を終えるということ――その死に誰が寄り添うか」には、そんな長期入院患者たちの人生と、その一時を伴走した若手精神科医、東徹氏の葛藤が生々しく描かれている。

 疾患の臨床情報だけでなく、発症の背景や人間関係、本人の性格や好物など、患者一人ひとりの息づかいが丁寧につづられた本書を通じて、精神科医療の現状が垣間見られる。中には、地域で生活を送る体制がなかったために数十年の長期入院になってしまったのではないか、と思われる例も登場する。もちろん、受け皿もないのに放り出すことはできない。こうした長期入院患者が地域生活に戻るための方策は、あちこちで検討されている。

 筆者が以前から注目している多機能型精神科診療所は、外来診療に加え、精神科デイ・ケアや訪問看護、24時間電話対応や就労支援などを行うことで、地域の精神医療・福祉ネットワークの中核を担おうとしている(関連記事:「入院」と「外来」の間を埋める多機能型精神科診療所)。かつて237床の精神病床を有していた国保旭中央病院(千葉県旭市)は、精神科患者が地域で暮らせるサポート体制を整え、入院患者の大規模な地域移行を成功させた。国保旭中央病院は16人の地域支援専従スタッフを擁し、訪問看護や訪問診療を充実させた。現在、精神病床は42床まで減少している(関連記事:増える「総合病院精神科」に残された課題)。

批判噴出の精神保健福祉法改正案
 長期入院患者の地域移行の議論が活発になっていた昨年7月、痛ましい事件が起きた。19人の入所者が殺害された相模原障害者施設殺傷事件だ。容疑者は、精神鑑定の結果パーソナリティー障害とされ、完全な刑事責任能力を問えると判断されている。しかし、この容疑者が事件の4カ月前に措置入院(自傷他害の恐れがある人を強制的に入院させる制度)の対象となっていたことから、措置入院の解除基準や解除後のフォロー体制を問題視する声が上がった。これを受けて厚労省は措置入院のあり方についての検討を行い、精神保健福祉法の改正案を今国会に提出。今月7日から参院本会議で審議入りしている。

 この改正案に対しては、「入院長期化の恐れがある」「人権侵害に当たる」と批判の声が高まっている。批判の対象の1つが、措置入院中から自治体が作成するとされている「退院後支援計画」だ。退院支援計画がまだ作成できていないという口実で、入院が引き延ばされるのではないか。計画の期間中に他の自治体に転出した場合は転出先の自治体に計画内容を通知するとしているが、重要な個人情報が本人が知らない間に伝えられてしまうのはいかがなものか。本人が希望しないのに医療を中心とした支援が続けられることは人権侵害なのではないか。措置入院者が退院後に継続的な支援を確実に受けられるように設置すべきとされている「精神障害者支援地域協議会」は、医療の名を借りた「監視」「管理」のための組織なのではないか――と、様々な懸念が示されている。

 また、国会提出時の改正案概要では相模原障害者施設殺傷事件に触れ、「二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う」と始まる。これに対して日本精神神経学会は、「精神保健福祉法改正に関する学会見解」を公表し、「事件の再発防止を目的として措置入院制度の改正を行うことに対して、きわめて強い懸念を表明」している。

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