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写真 SHIPSの勉強会の様子 静岡県内で在宅医療に取り組む13薬局、計15人の薬剤師で活動している。

 患者は、腰痛と不安・不眠症状が主訴の70代男性(要支援1)。重複投薬も含め、6カ所の医療機関から計30種類の薬剤が処方されている。病識が乏しく、服薬管理不十分のため不安症状が悪化し、救急車を頻回に呼ぶようになった。残薬も多いし、何とかならないか──。地域包括支援センターから、この患者への介入を依頼されたのは、薬剤師の太田勝啓氏(くすり東海堂薬局[浜松市天竜区])だ。

 患家に赴き状況を把握した太田氏は、先に関わっていた訪問看護師やケアマネジャーと連携し、受診医療機関を3カ所に調整するとともに、そのうち1カ所の診療所内科医にこの患者の主治医になってもらい、訪問薬剤指導の指示をもらった。各医療機関に服薬状況などを情報提供し処方を整理してもらったところ、薬剤は10種類まで減り、それらを一包化しお薬カレンダーにセットし服薬管理を徹底。本人にも服薬の重要さを丁寧に説明し、訪問看護との連絡体制を密に様子を見た結果、体調が落ち着いてきたという。

 先日、静岡県内で在宅医療に取り組む薬剤師が集う自主勉強会グループ、SHIPS(Shizuoka Homecare Interesting Pharmacists)の活動の様子を取材する機会を得た(写真)。この日のテーマは、在宅医療における服薬の問題点と解決方法で、冒頭の症例の他にも、服薬管理不十分例や退院時に麻薬が処方され医師から訪問依頼があったケースなどが紹介され、ディスカッションを行った。

看護師の服薬支援との違い出せるか
 SHIPSの活動の歴史は、10年以上前に遡る。静岡県薬剤師会介護保険委員会のメンバーだった薬剤師が中心となり、在宅での活動の足掛かりとなるグループを組織し、現場経験を積み重ねてきた、いわばパイオニアだ。

 一方、薬剤師業界全体で見ると、薬剤師の在宅での取り組みは緒についたばかり。調剤報酬改定を受けて在宅に新たに取り組む薬局が増えてはいるものの、薬の配達以上に薬剤師が在宅でどのようなことができるのか、患者はおろか、医師をはじめとする他の医療者にも十分認識されているとは言い難い。薬剤師自身からも「介護や在宅に関わるイメージが湧かない。何をすればいいのか」といった戸惑いの声がいまだに聞かれ、自分たちの立ち位置を模索している様子がうかがえる。

 「訪問看護師やヘルパーが行う服薬支援・指導と、我々薬剤師が行う服薬指導の違いを、患者や他職種にきちんと説明できなければならない」と太田氏は語る。患家に残薬があれば、単に処分するのではなく吸湿性などを確認した上で使える薬剤は使用する、患者の状態に応じて服薬のタイミングや剤形を変える、薬剤の副作用を踏まえて処方の変更を提案する──など、果たせる役割は大きい。

 中でも、「薬効を踏まえた上で医師に処方提案できる点は、薬剤師の強み。患者の状態の変化に詳しい訪問看護師などと協働することで、在宅での療養生活の質向上に貢献できるはずだ」と太田氏は続ける。

 実際、在宅での薬剤師の活躍に大きな期待を寄せる他職種もいる。北須磨訪問看護・リハビリセンター(神戸市須磨区)所長で看護師の藤田愛氏もその1人だ。

 全身機能が低下している患者に十数種類の薬が次々と出されている、飲み合わせや副作用のことが気になる、別の医療機関から出された薬剤を腸瘻から注入しようとしたらチューブが詰まった──。看護師は在宅で薬を巡る様々なトラブルに遭遇する。「看護師が薬剤について勉強することも大事だが、薬局にいる“薬の専門家”に介入してもらった方がより良い解決策が見出せる場合がある」と藤田氏は話す。

 藤田氏は、在宅に薬剤師の力が必要と考え、10年以上前から地域で働き掛けてきた。当初は薬局に患家への訪問を依頼しても、「忙しいから相談されても困る」「医師の指示通り薬を出している」とつれない反応をされたことも少なくなかったという。それでも、地域で多職種の会を作るなど地道な活動を進めた結果、取り組みは徐々に実を結び、「最近では、『薬剤師に入ってもらってよかった』という患者や他職種の声も聞かれるようになってきた」(藤田氏)という。

 薬剤師の在宅参入を快く思わない訪問看護師すらいる中で、薬剤師の職能をここまで理解し、信頼を寄せる看護師は珍しい。藤田氏にその理由を尋ねると、病院勤務時代のこんなエピソードを明かしてくれた。

 看護師として駆け出しの20代の頃、藤田氏は昼休みにたびたび薬剤部を訪れては、「Aさんが、薬が増えたのに全然眠れないと言っている」「Bさんは薬を飲んではいるが、よく見ると床にこぼしている」など、入院患者の薬にまつわる出来事を薬剤師に話していた。当初は雑談のつもりで何気なく話していたのが、ある日、話題にした患者の薬の種類や剤形が知らぬ間に変更されていることに気が付いた。

 「薬に関する問題を薬剤師が水面下で解決してくれていて、看護師の上司へ報告するのとは異なる効果に驚いた。このことが原体験となって、薬剤師の力を借りたいと自然と思うようになったのかもしれない」と振り返る。

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