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記者の眼

千載一遇のチャンスをみすみす逃した薬剤師会

 「ああ、またか」。1月11日の中央社会保険医療協議会を傍聴していて、筆者はたまらず独りごちた。薬局薬剤師に向けられた援護の風が再びあっけなく消え去るのを目の当たりにしたからだ。

 この日の中医協では、2018年度診療報酬改定に向けて早くも本格的な議論がスタート。厚生労働省は議題として「在宅医療」を取り上げ、多様化する患者のニーズに対応できるような新たなサービス提供のあり方や、地域の状況、個々の患者の状態、医療内容、住まい・住まい方などを踏まえた評価のあり方について、検討を促した。

 そのうち、「新たなサービス提供のあり方」について、支払側委員の幸野庄司氏(健康保険組合連合会理事)は、「ICT(情報通信技術)の活用で在宅医療の効率化が可能である」と主張。加えて、「訪問診療は本当に医師が診るべき患者に限り、医療必要度の低い患者については、薬局の薬剤師や訪問看護ステーションの看護師などに対応を任せていくことを考えるべきでは」とも述べた。

 すると、この発言に診療側委員の中川俊男氏(日本医師会副会長)がかみついた。「いくらICTが発達しても、医療は対面診療が原則」と強調した上で、次のようにまくし立てた。

「幸野委員はぜんぜん分かっていない」
 「診察はコミュニケーションが取れればいいのではない。医師は、患者の顔色や息遣い、声の調子、雰囲気などを踏まえて総合的に診療している」「状態が安定しているかどうかを判断するのは医師の仕事。軽度の患者をどんどん医師から離そうという考えはおかしい」「最初にかかりつけ医に1回受診すれば、あとは遠隔医療でいいのか。包容力がある医療が必要であり、それをICTで済ますことはあり得ない」。そして、こんな発言まで飛び出した。「幸野委員はぜんぜん分かっていない」──。

 相手を何とかやり込めようとするのは、中川氏の常とう手段。その是非はさておき、筆者が注目したのは、幸野氏の提案にあった薬局・薬剤師の活用だ。幸野氏は2015年7月に中医協委員に就任。以来、中医協を含め、公の場でしばしば薬局・薬剤師の役割に関する発言をしてきた。2016年10月10日に名古屋市で開かれた日本薬剤師会学術大会で講演した際には、「医師の処方権と薬剤師の調剤権には格差があり過ぎる」とし、調剤権を医師の処方権と同等に近づけるべきとの考えを示した。

 この発言はすぐさま同年10月19日の中医協でやはり中川氏に徹底的に攻められた。幸野氏は調剤権の拡大・強化として具体的に、(1)処方箋の後発医薬品変更不可欄を削除し、後発医薬品への変更は薬剤師の調剤権により判断する、(2)残薬を確認した場合には、医師に疑義照会せずに、薬剤師の判断で対応する、(3)リフィル処方せんを導入し、病状が安定した患者は一定期間内であれば医師を受診しなくても薬局で薬を受け取れるようにする──案を提示。だが、中川氏は「患者を診断して、どんな治療をするかを、資格として認められているのは医師。患者を診察しない薬剤師が、どのようにして使う薬を判断するのか」と受け付けず、「医師の処方権と薬剤師の調剤権を是正するというのは暴論だ」と斬り捨てた。

 これだけ叩きのめされながらも、幸野氏は3カ月後の中医協で再び薬局・薬剤師を活用すべきとの意見を述べたことになる。なぜか。そのヒントとして、幸野氏は、日経DI 2017年1月号のインタビューで、次のように応えている。

 「医師は患者を診ることに関してはプロですが、薬に関しては薬剤師の方が専門家であるはずです。医師と連携して医薬品の選択や交付後の薬学的管理に積極的に関わることこそ、薬剤師の本質業務ではないでしょうか」

 このコメントから明らかなように、幸野氏は薬剤師にしっかり仕事をしてもらいたいとの思いが強い。それは期待の表れでもあって、だからこそ権限・役割の拡大につながる発言を積極的に行っていることがうかがえる。
 

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