日経メディカルのロゴ画像

記者の眼

消費増税延期+英EU離脱で医療財源確保に暗雲

 政府は、社会保障と税の一体改革によって持続可能な社会保障制度を実現させるはずだった。ところが消費税10%への引き上げは2年半の延期となり、社会保障の充実策は優先順位の高いものからの実施にならざるを得ない状況に追い込まれた。加えて英国のEU離脱Brexit)を機に世界経済が動揺、日本経済への影響は必至で、医療を維持する財源の確保にも暗雲が漂い始めている。

 6月18日。都内で開かれた全日本病院協会の総会でのことだ。挨拶に立った会長の西澤寛俊氏は「経済を優先しなければならないのは理解できるが……」と前置きしながらも、消費税10%への引き上げ延期によって「持続可能な社会保障制度の財源が本当に確保できるのか心配だ」と話していた。

 10%実施によって生まれる増収分のうち、14兆円は全て社会保障の安定化と充実に使うことになっている。内訳を見ると、高齢化などに伴う社会保障費の自然増を賄う費用に7.3兆円を、社会保障の充実(子ども・子育て支援、医療・介護、年金制度の改善)に2.8兆円を充てるほか、基礎年金国庫負担に3.2兆円、消費税率引き上げに伴う社会保障経費増に0.8兆円を振り向ける計画だ。

 これが2016年度予算では、消費税増収分は8.2兆円で、このうち自然増負担に回すのは3.4兆円、社会保障の充実には1.35兆円となっている。10%実施時に比べてそれぞれ3.9兆円、1.45兆円も少ない。消費増税延期によって、その分を当てにした社会保障の安定化と充実のための対策もまた先送りとなる構図だ。

 しかし、高齢化などに伴う社会保障費の自然増は膨らむ一方だ。子ども・子育て支援や医療・介護の充実、さらには年金制度の改善も待ったなしだ。2018年度には、診療報酬と介護報酬のダブル改定も控えている。 

 では、消費増税延期で消えた財源をどうやってひねり出すのか。

 与党のある国会議員は、日本経済の成長で生まれる税収増を頼りに、社会保障費のための補正予算を組んで何とかしのぐ案が、政権内で取り沙汰されていると明かす。しかし、補正予算に頼る案では、持続的で安定した財源を確保することは難しい。だいいち経済成長による税収増は、その時々の経済状況に左右されるもので、もともとが流動的な財源にすぎない。

 短期間のつなぎとしての補正予算はあり得るかもしれないが、その可能性さえ絶ちかねない出来事が起こってしまった。英国のEU離脱だ。

 英国の国民投票でEUからの離脱が決まったのが6月24日。そのショックが世界の市場を駆け巡った翌25日には、日本医師会長の選挙が行われ、現職の横倉義武氏が3選を果たした。

 記者会見に臨んだ横倉氏は、2度にわたり英EU離脱に言及。これを機に世界経済が混乱し日本経済への影響も避けられず、「社会保障の先行き不透明感が強まっている」と懸念を示した。その上で、財源不足から国民が必要な医療を受けられないという事態に陥ることがないよう、政府に働き掛けていくと表明した。

 この夏から来年度予算案を巡る議論が本格化する。消費増税の延期、さらには英EU離脱の影響で、持続可能な社会保障制度の実現が停滞することはあってはならない。ただし、その実現のためには、新たな国民負担の必要性が議論の俎上に上るかもしれず、医療・介護サービスの給付範囲の制限も避けられないかもしれない。

 折しも参院選(7月10日投票)の真っただ中だ。社会保障の安定や充実もまた争点のはず。新たな国民負担や医療・介護サービスの給付制限なども含め、持続可能な制度の実現に向けた国民的な議論が巻き起こってほしいものだ。ちなみに投票に当たっては、候補者が訴える政策、特に医療や介護などの社会保障関連のものについては、その裏打ちとなる財源に踏み込んでいるのかどうかを、ぜひ見極めたい。

この記事を読んでいる人におすすめ