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記者の眼

製薬企業が注目する腸内細菌を標的とした創薬

 腸内に存在する細菌叢のバランスが乱れると、疾患の発症や免疫低下に関係があると報告されている。現在知られているのは、感染性腸炎や、クロストリジウム・ディフィシル菌感染(Clostridium difficile infection:CDI)によって起きる偽膜性大腸炎、炎症性腸疾患(IBD)、大腸癌など腸に関連する疾患だけではなく、気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患、肝疾患、精神疾患、多発性硬化症、糖尿病などだ。

 そこで、乱れた腸内細菌叢のバランスを整えることにより、これらの疾患を予防したり治療することが試みられている。その1つとして既に臨床応用が始まっているのが、CDIを原因とする偽膜性大腸炎などに対する便移植だ。便移植は、健常人の便を患者に移植するもので、実際に症状の改善などの効果が出ている。

 ただし、様々な微生物を含む便を移植すると、ウイルスなどの感染の危険性がある。本来は、腸内細菌叢のうち疾患の原因となっている細菌を除いたり、腸内環境を改善する微生物を補うといったことをすべきだが、どの微生物がどのような働きをしているかは分かっていない。そのため、特に欧州を中心にして腸内細菌の研究から明らかとなったメカニズムを基に、必要な細菌だけを取り出して「薬」にする研究が進んでいる。

 中でも、製薬企業による大きな契約として話題を呼んだのは、2015年1月、米Johnson & Johnson社傘下のJanssen Biotech社が、ベンチャー企業である米Vedanta Biosciences社の腸内菌製剤VE202を総額2億4100万ドル(およそ268億円)で買い取ったことだ。VE202はどのような薬かというと、IBDを対象としており、制御性T細胞(Treg)を腸管免疫に誘導する17種類の細菌群をカクテルにした製剤だ。

 実はこの17種類の細菌群は、慶應義塾大学教授の本田賢也氏(当時理化学研究所)ら日本のグループが2013年にNature誌で発表したもの。今後、Janssen社が臨床試験を行い、医薬品としての承認を目指す。他にも、欧米では様々なベンチャー企業が腸内細菌を標的とした創薬の研究開発を手掛けている。研究には多額の資金が必要だが、腸内細菌を標的としたものは、投資法人などから有望な研究として評価されており、多額の資金を獲得している状況だ。

 一方日本では、腸内細菌の受託解析などを手掛けるベンチャー企業はあるものの、欧米のように、腸内細菌を標的とした創薬ベンチャー企業はほとんど見られないようだ。しかし、日本の製薬企業の関心は高まっている。2016年1月には、武田薬品工業が、腸内に存在する細菌や微生物などの腸内細菌の解析や創薬研究を行うフランスEnterome Bioscience社と提携することを発表した。将来的には、腸内細菌の医薬品が販売される日も遠くはないかもしれない。
 

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